ステークホルダーの皆さまに向けた代表取締役社長退任のメッセージ

2017/09/14

お知らせ

「ロジカルに考えるとか、ビジネスに必要なスキルを磨く訓練をちゃんとしてきた人がいいな…、外資系のコンサル出身者とか。でも、コミュニケーションが苦手なエクセルおたくみたいな人はやめてね。あと、事業会社で揉まれた人。要は論理だけでは物事進まないことを良くわかっていて、そこに労を惜しまない人。そんな経験をしてきて、トップにできるだけ近いところで仕事をしてきた人…」
「無茶なリクエストで申し訳ないけど、万が一そんな人がいたら、是非紹介してくださいね」



1年前の夏、付き合いのある人材紹介会社の社長と食事をしながらそんな話をする機会がありました。


その前年の冬に株式公開を果たしてからというもの、働く仲間がどんどん増えていましたし、人材の質も高まっている実感もありました。そんな中で「会社の成長ステージが変わっていくであろう」という予感がありました。またいっぽうで「変わっていかなければ株式公開をした意味がない」とも思っていました。


そんなワクワク感のいっぽうで、心配のタネもありました。それは「成長ステージが変われば、マネジメントも変えていかなくてはならないのではないか」という命題です。つまりこれからの会社が直面する経営課題の解決に、わたし自身の能力やパーソナリティは合致しているのか、賞味期限切れを起こしているのではないか、ということです。もっと言えば、「次の段階のトップとしてのマネジメントを自分が一人担い続けることが最適なのか?」 という問いであります。


もともと当社は父親が創業した仏教関連書籍の出版社で、わたしの入社後にライフエンディングのマーケットに向けた出版、さらにセミナー、コンサルティング、そして現在主力のインターネットサービスといったように、情報ビジネスを次々と横展開してきました。ですから先を読むことや、変化を先取りして新しいことにチャレンジすることについて、わたしは割と得手な方だと思っています(もっとも、そうしないと潰れていただけのことかも知れませんが)。


ですがこれからは、ひとつの事業を拡大するだけではなく、複数の事業を同時並行してマネジメントしていかなくてはなりません。そんなフェーズでは、マネジメントの手法も変化、多様化が求められるのではないか、と考えるようになりました。


わたしたちのビジネスはその時々いる場所から、少しずつずらしてやってきただけのことですが、気が付けば~それは当初から志向してきたわけではありませんが~高齢社会に向けたITサービスという、周りからは羨ましがられるような立ち位置を得ることができました。


世界一高齢化が進むわが国において「高齢社会×ITサービス」という事業領域には当然、機会はたくさん存在します。

つまり、「何をやるか」は潤沢なのです。いっぽうで事業の成否において「何をやるか」以上に重要なのは、それを「誰が、どんな組織がやるのか」です。


そして、分業とチームワークによって相乗効果を出すITサービスという事業において、その成否はすべて人にかかっているわけです。優秀な人材が集まり、その人たちが前向きに仕事に取り組める環境を作り続けることが、どんな事業をするかと同じくらい大切だと考えたとき、その大役をわたしというパーソナリティが担い続けられるかが問題です。組織が大きくなってくるからと言って、社員に対するコミュニケーションを割愛することはできません。店舗も在庫も持たず、人材だけと言っても良いわたしたちの事業においては、一人ひとりのオーナーシップこそが唯一、会社の発展を確実にするものだと考えるからです。だから、マネジメントの役割を分担することが必要であると思いました。


冒頭の会話に戻しましょう。以上のような問題意識から生まれた、零細企業の贅沢なリクエストを叶えてくれるキューピットは簡単には現れませんでした。


でも、「念ずれば花開く」(仏教詩人の坂村真民のことば)ということでしょうか、想定外のルートから相木孝仁との出会いが生まれました。


本人の承諾は得ていませんが彼の経歴を大雑把に書くと、大学の体育会で理不尽と忍耐を学び、大学院でビジネスのフレームワークを学び、コンサル会社でその摺り込みを行ったうえで、事業会社で人はどうすれば動くのかを学んだ人です。
(この「人はどうすれば動くのか」という部分は大切なので捕捉したいと思います。それは、社内外に渦巻く利害関係や意見の対立、あるいは好き嫌いを含めた感情を理解し、粘り強くコミュニケーションを取ることで、それぞれの動機付けの総和を最大化するという仕事です。これからの当社の事業フェーズでの最重要ポイントであり、わたしはこの分野は不得手なほうだと自覚しています)。


さて、相木の入社以来わたしには彼の観察という仕事が加わったわけですが、とりわけエネルギッシュでコミュニケーションを端折らないなど面倒なことを避けない姿勢は、流石だなと感心することしきりであります。


ならば、中途半端な副社長なんて役割でなく、彼にトップの役割を担ってもらった方が会社の発展につながると考えるのはリーズナブルでしょう。


ということで、中間決算の発表日という節目でもある9月14日の取締役会の承認を経て、彼に代表取締役社長の任を引き受けていただき、わたしは代表取締役会長に就任させていただきました。会長なんて会社法に規定されてない役職が院政や二頭政治を生む危険性についても、複数が代表権を持つことによって起こり得る弊害の可能性についても十分に議論、検討を加えました。


その上で、今回の体制がこれからの会社の発展にベストであろうと考えています。あとはわたしの寂寥感の問題が残るくらいです(笑ってやってください)。


でも、わたしは何より勉強が大好きですし、他人様が考えを止めてもそのことについていつまでも考えているという習性があります。この習性(能力ではありません)を生かして今後もこれまでと同様に会社の発展、ステークホルダーの最大幸福に務めていきたいと考えています。


以上、今回の人事に至る背景や経緯を正直に書いてみました。引き続き、皆さまのご理解とますますのご支援をお願い申し上げる次第であります。

株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝