会長コラム“展望”

通信会社の未来

2018/12/01

社会

今回は投資の話、というより企業の見かたというテーマかな。ここ数日の間に、同じ内容の提案を4、5社の会社から何度も受けるという経験をした。何かというと、12 月に新規上場する予定の(通信会社の)ソフトバンクの株式への投資に関する証券会社からの勧誘である。

(親会社の)ソフトバンクグループが通信ビジネスを主体とする会社から、IOT 社会を見据えた、最先端の企業への投資事業を中心とする会社へシフトしていく中で、子会社である通信会社の株式を上場させ、その一部の売り出しを行うことで資金得て、未来へのさらなる投資を行っていこうという目論見のプロジェクトだ。


一度に数兆円もの規模の株式の売り出しは過去にほとんど事例がなく、これを販売する証券会社は大変なエネルギーを注がなくてはならないのだろう。いっぽうで、得られる手数料も莫大になるだろうから、このディールに力が入るのも理解できる。しかしながら、年々人口が減少しているわが国の市場で通信のビジネスに高い可能性があるかといえば、イエスと言える人は少ないだろう。楽天のように新たな参入業者もあるので、競争は激しくなる。


さらには、菅官房長官が「携帯電話の通信費は4 割値下げの余地がある」などと度々発言しているように、価格は民間企業のコントロールの外(国の主導)で今後下落していく傾向になるだろう。民間の事業に国が口出しするのはどうかと思うし、だったら最初から電波の割り当てを競争入札にすればよかったのに、と思ったりするけど、過去に戻ることはできないから、今できることをやろうということかも知れない。


確かに携帯電話の通信会社の利益の源泉は、①電波の割り当てという、数社の企業だけが得られた特権であり、したがって競争が限定的②各社が消費者にとって複雑かつ分かりにくい料金体系(電話機の販売と利用料をごっちゃにして、プラン百出で単純に横並びで比較できないようにする)を採用することによって、得られたものだから、これを適正な状況に修正さえすれば、それほどの時間をかけずとも利益は大幅に減ってしまうだろう(そんなことをすれば、将来への投資ができなくなってしまうと各社は反論するのだろうが)。


このように考えると、新規に公開する通信会社ソフトバンクに投資する理由は企業の成長という観点からは見出すことができない。いっぽうで、株主には配当を受ける権利というのがあって、ソフトバンクの場合、今期はこれが株価の5%程度になりそうだという。銀行の普通預金の金利がほぼゼロという中で、5%もの高率のリターンが得られる金融商品は稀である。よって配当を求める投資家にとってみれば、この投資は魅力的に映るのかも知れない。だがこれも、今の利益水準をベースにした話に過ぎず、通信の国内市場の拡大が止まる中で、菅官房長官の言うように、4 割もの値下げが行われたあかつきには、利益が減るか、配当が減るか、投資が減るか、あるいはそのいずれもが起こることが想起される。


そもそも、取締役会が会社の将来を鑑み、その時々に最適な利益処分を決めるのではなく、親会社や他の株主の都合で、利益のほとんどを配当に回さなくてはならない会社(ソフトバンクは純利益の85%を配当に回すという)は、結局は将来に向けた適切な投資ができなくなり、いずれは社会の変化についていけなくなる。社会の変化を誰よりも早く感じ取り、成長の可能性が高い企業に、リスクを取って果敢に投資をしてきた稀代の事業家である孫正義さんが、自らの足下で成長産業でもない「配当が楽しみ」という会社を放置し続けるとはふつうは考えにくい。そんなわけで、いずれこの通信会社を手放し、新たなチャレンジをするのではないだろうか、などと考えてみた次第。


商売に繋がらなかった証券会社の担当者の皆さんにはたいへん申し訳ないが、邪推は実に楽しいなあ。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝