会長コラム“展望”

「継続力」と「意志」

2018/05/01

組織

 先日、新聞を読んでいたら「RIZAP、J1湘南ベルマーレを傘下に」という記事があった。著名人のダイエットCMで有名なフィットネスジム運営のRIZAPグループがJリーグの球団の経営権を取得するというニュースだ。この会社は、近年矢継ぎ早にたくさんの企業を買収していて、その勢いには目を見張るものがある。


実は、何年か前にわたしはこのRIZAPのジムに通っていたことがある。成果は?と聞かれると顔が赤くなってしまうが、白状すると体重は全く減らなかった、厳密に言えば少し増えてしまったのだ(CMに出演しましょうか?)。しかし、これはRIZAPのせいでも、担当していただいたトレーナーの責任でもない。言いつけを守らなかったわたし自身に問題があったのだ。


ダイエットのメソッドにはさまざまなものがある。書店に行けば類する本がたくさん売られているし、テレビでも番組や広告等でさまざまなメソッドや商品が取り上げられている。近年では医学等も進展しているから、何が太る要因になるかだとか、どうすれば痩せられるかといったメカニズムも科学的にかなり解明されている。


ところが、どれだけ科学的なメソッドが解明されてもダイエットの目的を達成できる人は限りなく少ない。なぜなら、それはメソッドだけで解決できる問題ではないからだ。メソッドに加えて個々に求められる「継続力」や「意志」という問題を多くの人が乗り越えられないからだ。RIZAPの画期的だったところは、メソッドではなく、多くの人が乗り越えられない継続力のなさ、意志の弱さにフォーカスしたことにある。


RIZAPのプログラムでは、週に2回、それぞれ1時間のトレーニングがあるが、そんなことで引き締まった体が得られるわけはない。ポイントは日々の食事である。ケータイのアプリを通して1日3食の食事を子細にトレーナーに報告することが要請される。アプリには様々な食事のメニューの一つひとつに対して、カロリーが幾ら、糖質が幾らなどと明記されていて、これが抑止力となったりする。そして、その内容を毎回トレーナーに報告するのだ。


要は監視の目を入れることで、継続力のなさ、意志の弱さをカバーして目的に近づけようというプログラムなのである。よく「RIZAPって必ずリバウンドするよね」なんて言う人がいるが、それは理解が浅い。真意はRIZAPのダイエットプログラムがリバウンドさせるのではなく、卒業すると監視の目がなくなって元の自身に戻ってしまうからリバウンドするということなのである。


さてここまで考えると、お金を掛けてでも目標を達成したい、だけどなかなか達成できない、といったことは私たちの日々の暮らしの中にはたくさんある。代表的なもので言えば英会話やゴルフなんかだ。これらも上達へのメソッドは山のようにあるが、問題はそこだけではなく、多くの人の継続力のなさや意志の弱さにあるわけだ。したがってRIZAPが事業としてそこに取り組むのは極めて自然なことであろう(念のため。RIZAPは近年、英会話教室やゴルフスクールを運営している)。


当時、ジムに通いながらわたしはこのようなことばかり考えていた。そして、そのビジネスの構造の方に気が行ってしまって、「これならいつでもできるな」という不遜な思考をした結果、トレーナーの言いつけをきちんと守らなかった。結果は冒頭に暴露した通りである。ついでにRIZAPの指導期間が終わった人に対して、監視の目を提供するサービスを安価に提供すればビジネスになるのではないか、などと余計なことまで考えていた。ということで、ケーススタディを学んでいたと思えば、大枚叩いたことも無駄ではなかった、という言い訳も成り立たなくもない?


最後に、同社の一貫性のないように見える企業買収の話に戻して考えてみれば、彼らはしっかりとした「継続力」と「意志」があれば、人と同様どんな企業も立て直しができると確信しているのかも知れないということに思い至る。脈絡がない、などと外野の人からは言われるのだろうが、もしかするとこの会社、生島ヒロシのようにすごい成果をもたらすのかも知れない。


以上ユーザーからの報告でした。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝