2015/05/30
個人的価値観
趣味が「読書とゴルフ」なんていうのは、経営者によくありがちなパターンだ。このふたつの趣味には「いろいろ考えさせられる」という共通点があって、きっとそのあたりが魅力なのだろう。ご多分に漏れず、わたしもそのひとりなのだが、後者については趣味の領域から除外寸前となっている。理由は至極単純、ぜんぜん上手くならないから詰まらないのである。練習する、道具を買い替える、そのことについて考える等の上達するための活動を全く行っていないのだから、それは当たり前なのだが、突き詰めればそこに向かう情熱がないから、活動をしないのだろうという結論に至った次第。「時期が来ればまたやりたくなるのじゃあないの」と客観視している。
そのおかげもあってか、前者の趣味には加速度がついている。近所の大型書店に立ち寄って、いろんな書籍を立ち読みするのが週末の楽しみのひとつ。でも、そこで買うのは多くの場合1冊のみ。重くて荷物になるので当座読む分だけを確保して、残りはamazonさまの出番となる。立ち読みしながら、コソコソ書名をスマホにメモっていると、なんだか悪いことをしているような気分になる。これがいわゆるショールーミングってやつで、こんな客は書店にとってはいい迷惑だろう。店舗や従業員を抱えて(ちなみに書店は、在庫は抱えていない)、余所で買われるのでは目も当てられないが、これも社会貢献と考えていただいて、大目に見てもらおう。
最近読んだ中では、『HARD THINGS』(ベン・ホロウィッツ著)が面白かった。著者はもともとシリコンバレーの著名なベンチャー企業の経営者で、現在はベンチャーキャピタルで投資家としての活動を行っている人物だ。人材の採用や育成、組織運営等についてのリアルな体験と、そこから得られた学びのエッセンスは、経営者の端くれであるわたしにとって極めて示唆に富むものであった。
わたしの場合、本を読むときはいつも片手にボールペンを持っている。気にかかったフレーズにアンダーラインを引くためだ。そうすると、次に読むときはアンダーラインの周辺を読めば良くって便利なのだ。そしてたくさんのアンダーラインを引いた書籍群は、見返すことが多いからと、本棚とは別の手元に近いところに場所に並べてある。そういえば、少し前に読んだ『「あまのじゃく」に考える』(平川克美著)の中に、本に引くアンダーラインについて書かれた一節があった。
「おそらくは、自分が日ごろ何となく思っているんだけど、言葉にできないことがあり、それをうまく言葉にしてくれているところや、自分が日ごろあたりまえだと思っていたことに対して、まったく異なった見方が提示されているところじゃないかと思います」
これを読んで思わず「そうそう、そうなのよ」とうなってしまった。結局、読書という行為は、「他人様の脳を利用して、自らの脳を最適化すること」と定義することができるのではないだろうか。脳は「考え」というふうに言い換えることもできるだろう。読書だけではない、講演やセミナーを聞く行為も同様の意味があると思うし、もっと言えば、人との会話自体「他人様の脳を利用して、自らの脳を最適化すること」なのではないか。
そして、一日の活動の中でこのような行為にいそしんでいる時間を、どれだけたくさん持てるかが、人生の最適化につながるのではないかと考えるようになった。読んできた本に4色ボールペンで引いてきたアンダーラインこそが、わたしにとっての財産であり、この世の中で財産と呼ばれるものはその副産物に過ぎないと今では思っている。
この週末は何を読もうかな?
株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水 祐孝