2012/10/31
個人的価値観
先般、任期満了に伴う民主党の党首選挙と自民党の総裁選挙が、ほぼ時を同じくして行われた。与党である民主党においては野田総理の再選が決まり、自民党のほうは安倍元首相がカムバックを果たした。私たちは3年前、何も変えられない自民党政権に愛想を尽かして、当時夢のある政権公約を掲げて選挙を戦った民主党に政権をやらせてみることにした。結果はご承知の通りである。
以下は当時の政権公約の中で謳われた民主党の国民に対する5 つの約束なるものである。あまりにも呆れてしまう内容なので掲載しておこう。
変わるのは、あなたの生活です。
民主党の5つの約束
1 ムダづかい
・国の総予算207兆円を全面組み替え。
・税金のムダづかいと天下りを根絶します。
・議員の世襲と企業団体献金は禁止し、衆院定数を80削減します。
2 子育て・教育
・ 中学卒業まで、1人当たり年31万2000円の「子ども手当」を支給します。
・高校は実質無償化し、大学は奨学金を大幅に拡充します。
3 年金・医療
・「年金通帳」で消えない年金。
・年金制度を一元化し、月額7万円の最低保障年金を実現します。
・後期高齢者医療制度は廃止し、医師の数を1.5倍にします。
4 地域主権
・「地域主権」を確立し、第一歩として、地方の自主財源を大幅に増やします。
・農業の戸別所得補償制度を創設。
・高速道路の無料化、郵政事業の抜本見直しで地域を元気にします。
5 雇用・経済
・中小企業の法人税率を11%に引き下げます。
・月額10万円の手当つき職業訓練制度により、求職者を支援します。
・地球温暖化対策を強力に推進し、新産業を育てます。
これらについて一つひとつチェックするまでもないのだが、この国民に対する約束は票を得るための方便ということだったのだろう、ほとんどをことごとく反古にしてくれているのが民主党政権である。
挙句の果てに、約束などしていない消費税の増税については実現させる始末である(笑ってしまうことに、これは自民党 のマニフェストには謳われていた。つまり自らのマニフェストは実現せず、自民党のそれを実現しているのが今の政権だ)。
もちろん、民主党が両院で過半数を持っていたわけではないわけだし、すべての約束が履行されるべきとは思わないが、ここまで出来ないとなると呆れて物も言えない。石に噛り付いても絶対に成立させるぞ、という意気込みを感じたこともなければ、これだけ何もできないとなると、実現が可能というある程度の見通しすら持っていなかったことも明々白々であろう。
「変わるのは、あなたの生活です」という冒頭のメッセージは、生活が悪化するということだったわけで、趣味の悪いブラックジョークみたいな ものだ。
人間は忘れっぽい動物であることを利用して、ここまで無能な集団(個々の政治家が無能なのではなく、政党という集団として無能とい う意味)が未だ政権にのさばっていることには悲しくなってしまうが、かといって野田総理が自公と約束した通り、近い将来解散に打って出ても、それで私たちの生活が変わると思っている人は皆無だろう。
野田総理も安倍総裁も、自らが唱える政策がいかに優れているかを説くが、要はその前にそれらを実現する資質がないことがボトルネックなのである。良い政策かどうかは、やってみないとわからない面が多い。そんなことは、未来の人たちが決めることだ。
いま、わが国のリーダーに必要な資質は、既得権に立ち向かい、しがらみを排して、変えていけるリーダーシップであり、それは良い政策を立案する資質とは全く異なる。私たちのリーダーに必要なのは「唱える能力」ではなく「実行する能力」であるはずだ。
そこを見誤って、どちらの唱えたプランが正しいなどと考えるのではなく、実行できる人かどうかという視点から、次の政権が選ばれることを期待したい。多くの人が維新の会(というより橋下徹氏)に期待するのは、既得権者と徹底的に戦い、しがらみを排し、そしてマスコミ等の外野からのバッシングを受けながらも、その情熱やエネルギーを保ち続けながら、社会を少しずつ変えていることだ。ついでに彼を見ていて判ることは、リーダーには相当なストレス耐性(残念なことに安倍総裁にはこれがなかった)が必要ということ。
そろそろ選挙が近いのだろうが、私たちはもう「絵に描いた餅」を語るだけのリーダーはいらないはずだ。
株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝