会長コラム“展望”

葬祭業者が取り組まなくてはならないこと

2011/07/01

ビジネス


先日、ジーンズメーカーのボブソンが倒産したという記事を目にした。

子どものころ母親にねだって、よく買ってもらっていたので愛着のある名前だ。記事によると最盛期には200億円程度の売上があったらしいが、2年ほど前にジーンズの事業が他社に売却され、その新会社が破綻したのだという。最近の売上は10億円内外であったというから、環境変化の激しさ、厳しさを改めて感じた次第。

しかし考えてみると、現代の人びとがジーンズをはかなくなったわけではなく、今も身近な存在である。

では、どうしてボブソンは倒産してしまったのだろう。

一言で言えば、ジーンズの世界に価格破壊が起こってしまったことが要因なのだろう。大量にしかも効率的に販売できるインフラを持ったユニクロ、イオンなどの企業が、海外の低コストの製造力を利用し、それまでの常識を覆すような低価格で消費者に提供したことで、ジーンズ専業メーカーから(ファッションにそれほどこだわりのない)顧客を一気に奪い取ったのである。調べてみると、ボブソンだけではなく、エドウィンやリーバイス等のジーンズ専業メーカーも売上高はピーク時から半減しているという。


葬儀(今回は葬儀に絞って考えてみよう)の市場においても、ジーンズほどドラスティックではないにせよ、直葬という名の価格破壊が進行中である。しかし、大量かつ効率的に販売できるインフラを持った企業は存在しないから、価格破壊で市場を制覇する企業は現れない。葬儀業界にユニクロは存在しないのだ。

価格破壊を訴えるのは大企業ではなく、むしろ新参者の零細企業だ。

彼らは葬儀を安く提供できる仕組みを持っているわけではなく、ただ(人件費や設備等の)固定費を持たないから価格破壊を顧客に訴えることができるだけのことだ。

しかし、低価格の少量販売は儲からない、当面回るだけだ。

一方で、固定費を多く抱える既存の葬儀社は、コスト構造上この分野では全く利益が上がらない。従って彼らは、葬儀の世界で起こる価格破壊に対してはボブソンやリーバイスと同様、指をくわえて見ているしかないのである。価格破壊に対応しないわけではないが、積極的に取りに行くことはしない。なぜなら、自らの首を絞めることになりかねないからだ。

顧客サイドに目を向けてみると、価格破壊になびくこだわりのない人たちはジーンズと同様に相当数存在する。そしてその比率は全国的に年々上昇する。結果としてこのような層は、新参の身軽な葬儀社に利益なき繁忙を与え、既存の固定費を持つ葬儀社からビジネスの機会を奪い取るわけ だ。

また、極端な価格破壊は顕著な例としても、消費者の低価格志向や、社会構造の変化(例えば高齢化、核家族化、単身化)から葬儀の規模の縮小化=単価の下落は避けられないところだ。

まとめよう、葬儀市場全体から見れば、以下のようなことが起こっていると言える。

消費者の低価格志向や葬儀の規模の縮小化が価格の下落を招いている。

単価の下落は、施行件数の増加で補うことができるはずだ。実際死亡人口は年率平均で2〜3%程度は増えている。

ところが、価格破壊(=直葬)が急激に増加しているため、対象となる市場の母数は増加するどころか、むしろ減少している。

結果として、単価は下がる。施行件数は下がるという、ダブルパンチを受ける企業が激増している。


施行数を無理に取りに行くと、直葬あるいはそれに近い仕事が増え、必ず単価が下がる。

かといって、単価を上げようとすると、ライバルとの競争に敗れ結局施行数が減ってしまう。設備投資を敢行しても、それに見合った仕事を確保することは至難の業だ。実際に、施行数を伸ばしている事例もないことはないが、それは 高いシェアを持つ、古い経営スタイルのライバル企業がたまたま存在していて、そこを草刈り場にしたに過ぎない。

葬儀の市場もジーンズと同様に、勝者なき暗闇の時代にすっかりはまり込んでしまった。葬儀業界には今後勝者は生まれず、消耗と淘汰の時代を迎えている。固定費を下げ柔軟な経営体質づくりに取り組み、消耗しない、淘汰されないことがまずは肝心だ。

当たり前過ぎる話だが、木ばかり見て森を見ない人がたくさんいるので…。


株式会社鎌倉新書

代表取締役社長 清水祐孝