会長コラム“展望”

能力を開花させるためには

2021/09/01

個人的価値観

能力を開花させるためには

閣僚の靖国参拝は夏の風物詩のひとつと言っていいのかも知れない。毎年、終戦の日になると公職にある政治家がこれみよがしに靖国神社を参拝する。すると、反発した隣国の韓国や中国が非難のメッセージを出すというのがお決まりのパターン。参拝の理由について彼らは口々に戦争によって命を失った方々への崇敬の思いや哀悼の意を示すのだと語り、不戦の誓いだと宣う。毎年繰り返されるこの光景、形式的なものでほとんどの日本人は何も感じていないだろう。けれど、わたしのように毎日参拝している身からすればとっても不思議な光景にみえる。

素直な感想として、たとえば彼らは熱い思いを持ちながらどうして年に一度しか参拝しないのだろうとか、(思い立った時ではなく)わざわざ8 月 15 日(終戦の日)に参拝するのだろうとか、不戦の誓いといいつつ友好的な関係を築くべき隣国に不快感を与える行為をするのだろうか、などなど。8月15日は当時の為政者が敵国や国民に対して敗戦を宣言した日であり、戦争のためにその前に命を失った人にとっては特別な日でも何でもない。

このように書くと皆さんは「彼らは単に有権者に対する PR 活動として参拝というポーズを取っているだけなのよ」とわたしに教えてくれるだろう。おそらくその通りで、報道してくれる日に参拝して自らの信条(らしきもの)を有権者に伝える、これが主目的ということだ。だが、もしそうではなく純粋な思いで参拝しているのだと主張される公職の方が仮にもいるかもしれないので、次のようなアドバイスをしておこう。

①時間の許す限り毎日のように、そうでなくても思い立った時に参拝しよう
② 8 月15日については(頑張ったところで理解してもらえないのだから)隣国に配慮して自宅の神棚に向かって手を合わせよう

これが正しい心の発露だと思うのだが・・。

とまあ偉そうなことを書いてしまったが、わたし自身も純粋な思いで日々拝殿の前で手を合わせているのではない。寺社に詣でる習慣が生まれたのは 25 年程前にさかのぼる。きっかけは一冊の本との出会いだ。『幾山河』というタイトルのその本は、戦時中に陸軍参謀を務めた瀬島龍三氏の回想録である。瀬島さんは終戦後シベリアに抑留され 10 年以上も過酷な環境の下での生活を強いられた。帰国後は、商社でビジネスマンとして活躍し、その後は政財界でも大きな役割を果たしてきた。小説『不毛地帯』のモデルとも言われる瀬島さんの人生回顧録を何度も読んで、当時の私は単純にも以下のようなことを考えた。

わたしたちの世代は戦後の高度成長期に生まれ、平和な社会で育ち、貧しさも知らない。しかし、そんな生活ができる環境は世界を眺めてみればほんの一握りの人々にしか与えられていない。そこでこのような疑問が生じる。「どうしてわたしたちにはこのような環境が与えられているのだろう」と。当たり前だが、環境はわたしたちが築いたものではなく、わたしたちの先輩たちが築いてくれたものなの。そんな経験からわたしには手を合わせる場所が必要になった。もちろんその場所が必ずしも靖国である必要はなかったのだが、自宅から近いこともあってここに落ち着いた。そんな単純な動機で拝殿の前で手を合わせる習慣がスタートし、現在に至っている。

さてここからが重要。何の習慣でもそうなのだろうが、長く続けていると思いもよらぬことに気づくことがある。そんな中で当初は全く分からなかったことで、いまは確信的に体得していることがある。それは拝殿の前で手を合わせて行う「願い」「祈り」「感謝の心」といった自然なこころの発露と、自らの潜在能力を高めることには大きな関連性があるということだ。きっと「願い」「祈り」「感謝の心」を聞いてくれているのは、拝殿の向こうの神さまではなく、自らの脳なのだろう、そのように推察している。そして、日々の習慣の中でそれらのメッセージが幾重にも積み重なって脳に刻み込まれていく。すると脳は意識はしなくても無意識のパーツがコンピューターのハードディスクのように日々活動を続けている、そんなことだろうと思うようになった。たとえば平凡な成績の中学生が「東京大学に合格しますように」と3年間毎日祈願したとしたら、その願いは必ずと言っていいほど成就するだろう。それは、刷り込まれた脳の無意識が勉強という行動に駆り立てたり、どうすれば合格するかといった情報を収集させたりするからである。

こんなことは科学的に証明されたことではないけど、何十年も参拝し続けたら感覚として理解できるようになった。人にはなかなか伝えることが難しいけど。そんなわけで、わたしたちの会社における中長期の事業計画についても、必ず成し遂げられるという確信があったりする。

ヘンな話なので中期経営計画には書けないけどね。



株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 CEO 清水祐孝