2011/02/01
社会
法人税の引き下げが議論されている。
現在、法人所得に対する課税の実効税率は40%を超え、米国と並んで日本は世界で最も高い方の部類に属する。経済がグローバル化する中で、これでは日本の企業の海外シフトを招いてしまうし、海外企業の誘致もままならない。そこで、税率を思い切って引き下げ 諸外国並みにしようというのが基本的な考え方だ。
しかし、わが国の財政が危機的な状況にある中では、引き下げによる税収減を何かで補わなくてはならない。 財源探しに明け暮れた挙句、結局は僅か5%引き下げることで決着を見るようだ。
この法人税の引き下げ問題については、設備投資の増加や、雇用の促進、賃金の上昇、配当の増加などにつながり、このことが景気を刺激するという意見がある一方、企業の内部留保に回るだけで、結局は国家財政の悪化にしかつながらないという否定的な意見もある。そういうテクニカルな話は、専門家に任せておけばいいとして、ここでは5%という下げ幅について考えてみたい。
5%という引き下げ幅は大きくない、という印象は多くの人が共有している。そして、40%が35%になったというだけでは、諸外国と比較して高水準のままであるという認識も共通のものだろう。そんな中で企業は、税金として納めなくて済むようになった資金を、設備投資などに回すのだろうか?
おそらくはそのようなことにはならないであろう。企業(もちろん人も)は、納めなくて済んだ金額という数字を見て(設備投資等を)判断 するのではない。その前に(設備投資をしても良いのではないかという)前向きの心理があって、その上で客観的に数字を見て判断を下すのである。5%という 引き下げ幅は、企業の内部留保を増やすという効果はあるのかもしれないが、経営判断を下す人たちの心理を前向きにするという点では、まったく役に立ってい ない。
これが、仮に10%という引き下げ幅であったなら、諸外国に近い水準となり心理を前向きにするインパクトがあったように思う。
現にEU諸国では、ここ10年ほど法人税の引き下げ競争が行われてきたが、引き下げによって税収は減少どころか増加傾向にあるという(もちろん、課税ベースの 拡大という部分もあるが)。従って、仮に課税ベースを思い切り拡大させたとしても、引き下げ率を大きくすることが企業経営者の心理を明るくし、景気を浮揚させる行動を取らせることにつながったのではないかと考えるわけだ。
悪評高い子ども手当にしても、同様であろう。
それが貯蓄に回ってしまっては国家財政を悪化せしめたというだけのことになってしまう。でも消費に回してもらうためには、将来が不安だという心理を変えなくてはならない。(仮にそれが現実のものでなくても)明るい将来を感じさせ心理を改善させるということと、子ども手当はセットになっていなくてはならない。なのに、実際はただ子どもがいる世帯が経済的に大変だろうからということで、お金をばら撒いているだけなのである。
このように人の行動は、もっぱら経済合理性の下で行われるのではなく、人の心理が大きく作用していることに役人や政治家は思いをめぐらさなくてはいけない。大盤振る舞いするような財政の余裕はない。ならば、せめて人の心持を明るくするようなポジティブなリーダーが今の日本には最も求められている
逆に言えば、そのような画期的なリーダーが現れるまでは、わが国の長期低迷は免れないのかもしれない。
さて、愚痴はこれくらいにしておこう。このようなことは一般消費者に対してモノやサービスを販売している、私たち供養に関わる民間企業の経営者も同じことである。今、私たちの提供するモノやサービスは、激しい単価の下落に見舞われているが、こ れは消費者の心理が供養に関わるモノやサービスに対してネガティブに映っていることにほかならない
例えて言うならば、直葬や家族葬自体に目を凝らすのではなく、そこに至った消費者心理に思いをめぐらせることが必要なのだろう。もちろん、さまざまな事情から直葬、家族葬という選択をする消費者は存在する。 しかし、そうする必要のない消費者までがそのような選択をするに至った消費者心理はどのようなものなのか、よくよく考えてみることは大切なことだ。よくよ く考えてみれば、そのような消費者に対するメッセージが変わるし、メッセージが変われば、何らかの突破口が見えてくるに違いない。
相手の心理を理解しようと努めることの大切さを言っておきたかった。
株式会社鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝