2023/07/01
個人的価値観
レストランにて
先日、レストランで注文した料理を待っていたら、運んできたのは料理を載せた円筒型のロボットだった。厳密にはロボットの仕事は、座っていた席のすぐ近くにある配膳のための中継地点まで運ぶことで、最後の3メートルは店員さんの役割だった。確かに、10メートルも先の調理場まで人が毎度取りに行くよりも多少は効率的なのだろう。
そういえば、最近はQRコードを読み取って、立ち上がったメニューサイトから注文をしてくれ、というスタイルの店にもちょくちょく遭遇するようになった。以前はと言えば、グランドメニュー、その日や時期のお勧めメニュー、ドリンクメニューなど数種類の印刷物がテーブルごとに置かれていて、店員さんがテーブルごとを回り、手書きの伝票に書き込む、というのが典型的なパターンだったから、ITを活用した効率化は飲食の領域でもそれなりに進んでいる。
少しずつの変化だから気づきにくいが、テクノロジーは進化を続け、それまでは人間が行っていた仕事を日々少しずつ奪っている。昨日と今日とではその違いはわからないが、5年前と今日とでは明らかに変わってきている、と言われたら、これを否定できる人はいないだろう。飲食業全体では、サービスに従事する総人口は減り続けているはずで、このトレンドは将来も変わることはないだろう。料理人だってテクノロジーが代替する割合はこれまた少しずつ高まってきているのだろうし。
タクシーにて
最近はタクシーが捕まりにくくなったと感じる人も多いだろう。わたしもその一人で、車内で聞いたところによると、人材が高齢化して退職が相次ぐと共に、新たな運転手のなり手が少なく、逆にクルマのほうが余っているということのようだ。しかし、この状況が長くは続かないことは容易に想像ができる。自動運転の技術は進化し続け、数年先には運転手なしでの安全運転が社会に受け入れられ、その利用が解禁になるに違いないからだ。人が運転する方がかえって危険とみなされる、その日はどこかで必ずやってくる。その時、タクシードライバーという職業は消滅する。(余談だが、UberやGoといった配車ネットワークを持つ会社は存続し、めちゃくちゃ儲かるだろう。最大のコストが運転手の人件費なのだから。)もちろんバスやトラックの運転手も同様で、人やモノを運ぶ運送の役割はすべて機械に置き換わるのだ。ついでに周辺領域でも変化が起こる。自動車保険は意味をなくし、自動車修理も激減する。そんな時代には3年ごとの車検もナンセンスの極みだろう。
生成AI
極めつけは毎日のように報道を賑わせるChatGPTだ。人間の専権事項だと考えられていた領域にまで踏み込んできたという点が生成AIの新鮮な驚きだった。当然ながら人工知能も進化を止めることはない。従って、こちらは飲食業や運送業のような仕事とは異なり、主にホワイトカラーと呼ばれる人たちの仕事を日々少しずつ奪い続けていくのだろう。
ということで今回は、テクノロジーの進化が、さまざまな領域で人の仕事を知らず知らずのうちに奪っていることを書いてみた。それはさながら、水温の上昇に気がつかない「ゆでガエル」そのもののようにわたしには思えるのだが、適温を気持ちよく泳ぐカエルに危機を訴えたところで共感は得られず、帰ってくる返事は「何を言っているの、世の中は完全雇用だよ」ということになるのだろう。
人手不足が叫ばれている。日本では失業率が2%半ばという状態が続き、職に就けない人の報道なんて見ることがなくなった。アメリカはもっと深刻で、人手不足が賃金上昇を生み出し、このことがインフレの長期化を招く事態となっている。でも、これまた気がつきにくいけど、このような状況はテクノロジーによる労働の代替をかえって加速化させているはずだ。そしてテクノロジーによる労働の代替が、人手不足を凌駕する日がいつか必ずやって来るだろう。今日起こっている現象しか見ない人にとって人手不足は大問題だが、長期スパンで考える癖のある人にとっては、テクノロジーによって職を奪われた人々をどのように処遇するかが大問題なのだ。
ChatGPTのサム・アルトマンCEOは生成AI時代の人の雇用について「(仕事が奪われるとの)現在の予測は間違っている。作るべきプロダクトはなくならず、新しい仕事が生まれる」と楽観的に言う。だけど頭の悪いわたしには、テクノロジーに仕事を奪われた人々と、テクノロジーができない役割を獲得した人々との対立の激化までしか想像力が働かない。人の格差がこれまで以上に拡大する、そんな時代にベーシックインカムは有効なのかもしれないが、おカネの問題だけではなく、心に付いた敗北感をどうやって拭い去ることができるのだろうか。お金や幸福度の不均衡がどれだけ拡大しても、民主主義の下で人権、投票権は均衡だ。世界中でポピュリストが政治を牛耳ることも考えられるだろう。
こんな想像を膨らませるのはあまり生産的ではないので止めにしよう。変化はチャンスでもあるわけだし。
・テクノロジーの進化は人間の労働を日々こっそりと奪いつつある
・人手不足はテクノロジーの進化を加速化させ、どこかで人手余剰に陥る
今回は、ここまでが言いたかったこととして、あとは妄想ということで終わらせていただきます。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝