2010/02/01
ビジネス
年末に決定した2010年度予算の政府案によると、一般会計の総額は92兆2,992億円と過去最大となった。これを賄う歳入は、税収が37兆 3,960億円、税外収入が10兆6,002億円となり、足りない分は国債の発行(44兆3,030億円)で帳尻を合わせるという。この結果、国債発行額 が税収見通しを上回り、公債依存度は48%にもなるという。
このことを例えて言えば、手取り年収370万円のサラリーマンが、100万 円の臨時収入があった上で、年間に920万円を使うということであり、不足する 450万円はどこかから借りておこう、ということであるから常識的には危なっかしいことこの上ない。もしこのサラリーマンが破綻しないで生活し続けられる とすれば、それは翌年から収入が飛躍的に増えるか、あるいは借金は返さないで良いですよ、という状況になるかどちらかであろう。
日本の 財政はかくも危険な状況にあるわけだが、現時点で、歳入(収入)を増やそうという具体的な方針は示されていない(一部の閣僚が消費税増税について言 及している程度)。よって歳入が飛躍的に増えることはない。むしろ、景況感からはさらに減るのではないかと思うほどだ。そもそも、税収の多くを所得税ある いは法人税に依存するというのは、今後の経済発展が見込まれる国の徴税モデルであって、成長が見込めない国がこのような変動の大きい税に依存すること自体 首をかしげざるを得ないのだが、そんな議論は聞かれない。
そして、歳出(支出)については、子ども手当や公立高校の授業料の無償化、農 業の戸別所得補償など、それこそ大盤振る舞いもいいところ。今のところ、借金 (国債)の金利が低いことがせめてもの救いだが、貸している方からすれば、そんな危険なところにはもう貸せない、あるいは金利を上げなければ貸せない、ということにいずれはなってくる。最終的には1500兆円からの、個人金融資産から巻き上げれば大丈夫という意見も聞かれるが、これはまさに借金を返さない という作戦で、果たしてどうなることやら…。
そんな状況だから、マニフェストで宣言した以外のムダな歳出は見直さなくてはいけない、と いうことで行われたのが話題となった事業仕分け、当初は3兆円のムダを削減するなどと、公の前で啖呵を切った鳩山首相だが、結果はわずか6900億円(その後9700億円に増額と発表)。国民やマスコミの忘れっぽい性 質を利用した単なる人気取りだったのかと思わざるを得ないものだ。確かに、国民の前で税の使われ方を明らかにすることで、多くの人びとの意識を高めるという点では価値はあったと思うのだが、92兆円に対して、約7,000億円ということは0.7%。月額30万円で生活する家庭が、2000円程度のムダを省 いたに過ぎない。
さて、いつも指摘していることだが、今日私たちの業界は大きな構造変化にさらされている。それは消費者の意識の変化から起こるもので、具体的には葬儀の簡素 化(家族葬化や直葬化)、仏壇の簡素化(小型化)、お墓の簡素化(小型化、永代供養墓などへの流れ)などとなって現れていて、売上や利益の減少というかた ちで影響を及ぼしている。経営者はこのような流れに身を任せていたら、会社の存続が危うくなるわけだから、当然何らかの手を打たなくてはいけないのだが、 多くの会社ではこの事業仕分け的なことしかやっていない。ただ業況が厳しくなったから、支出を削減しようということで、ムダなコストを見直す。もちろんそ のことが大切ではないということではないのだが、コストの削減だけでは大きな構造変化に対応することはできない。事業仕分けが、国の財政の危機的な状況を 救うことができないのと同様に、コストの削減によって減じることができた支出では、消費者の意識の変化が招く売上の減少を賄うことは、1年程度ならともか く、中長期的にはできない。
国がやらなくてはならないことは、歳入の構造の見直しや、(事業仕分け的なものではなく)従来の発想を越え た歳出の削減(例えば社会保障費の大幅削減)で ある。私たちが取り組まなくてはならないのは、構造変化への対応であり新たな価値の訴求である。その時に会館や店舗が不要になることだって場合によっては 起こり得るのだ。
株式会社鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝