2014/06/30
個人的価値観
私たち日本人にとって、この夏の楽しみなイベントのひとつは6月に開催されるブラジルでのサッカーのワールドカップだろう。そして、本稿をお読みいただく頃にはわが日本代表チームの戦績は明らかになっているはずだ。国際サッカー連盟が格付けしたランキングによると、わが国は1次リーグを戦う4ヵ国の中で最下位となっている。だけど、ランキングなんて全然当てにはならないと、日本人サッカーファンは考えている。世界中の国々同士がそれぞれ100試合ずつでもやった上でのランキングであれば、それなりの信ぴょう性は生れるのかも知れない。だけど、数少ない結果を元にはじき出されたものだし、そもそもワールドカップでの勝負は1回限り、そうなると時の運みたいなものだ。いずれにせよ、わが日本にとって嬉しい結果となることを祈りたい。
現在、サッカー日本代表の中心選手の多くはヨーロッパのクラブチームに所属している。世界で最もレベルの高いサッカーが行われている場に自らの身を置くことが、アスリートとしての夢や目標であることは疑いのないところだ。いっぽう、クラブチームのマネジメントの視点に立ってみれば、世界有数の経済大国のスター選手である本田や香川をチームの一員にすれば、日本企業からの広告収入の増大や、放映権料の確保、あるいはグッズの販売につながるというビジネス上の価値を生む。同じ戦力レベルの選手なら、自国やアフリカの開発途上国から取るよりも、クラブの経営という視点からは好ましいわけだ。
ところが試合に目を向けると、現場を任されている監督の使命は、試合に勝利することであり、もっと言えば勝利によってクラブの経営に好影響を与えることである。結果として、本田や香川は試合に出られないことも多かったりする。日本のスポーツ報道の論調によると、監督の見る目がないために、日本のスター選手がレギュラーとして定着しないみたいな感覚を持ってしまうが、実際のところは、グラブのトップマネジメントと現場のマネジメントの目指す方向性の違いから起こる話だろう。
純粋なスポーツとしてではなく、ビジネスとしてサッカーの世界を眺めると、そんなことに気づいたりする。ということは、中国から1人、韓国から1人……というように、サッカー人気が高くて、経済的な規模も大きな国の選手を少しずつ取ることが、クラブ経営としては必勝法なのかもしれない。このように、スペインやイングランド、イタリアといったヨーロッパのリーグでは、市場は世界全体であり、完全にグローバルなビジネスということになる。
いっぽう日本のJリーグは、このような手立てが通用しない。仮に海外の有名選手を獲得したとして、試合に勝つことにはつながっても、ほとんどが日本人選手のJリーグの試合を放送したいと申し出る国はないだろう。ビジネス的にはピッチでの活躍、そして勝利が全て。その意味では、Jリーグは完全に国内市場に向けたローカルなビジネスである。
世界を市場にすれば、それだけ規模の大きなビジネスになる。そんなことを考えて、ちょっと調べてみたらやはりそうだった。香川選手の所属するマンチェスターユナイテッドの売上は日本円で優に500億円を超えている。いっぽう、Jリーグのチーム平均の売上高は30億円強で、グローバルなビジネスを行うヨーロッパのクラブチームとはケタが違うのだ。余計なお世話ではあるが、当然、香川や本田の年俸も日本にいた時とは違ってそれなりに大きな金額なのだろう。世界の頂点で自らを磨きたいというアスリートとしての志を、経済的にもきちんとバックアップできるように、グローバルビジネスは成立しているのだ。
同様のことは、他のスポーツでも頻繁に目にするようになった。ニューヨークヤンキースに移籍した田中将大投手を獲得するために投資した金額は、グローバルにビジネスを行っているから可能なのであって、国内だけが市場の日本の球団にはとても太刀打ちができない。また、直近ではゴルフのPGAツアーで優勝した松山英樹も同様だ。彼が手にした優勝賞金が約1億2000万円、同じ週に行われた日本のトーナメントの優勝賞金は2200万円。同じ4日間の試合で優勝者が得られる対価の違いは、まさにグローバルビジネスとローカルビジネスの差なのだろう。
ワールドカップなどと書きながら、スポーツとは関係のない話になってしまった。ビジネスは国境や民族という境目をどんどん失わせている。スポーツに限らず、多くのビジネスはこれからもどんどんグローバル化していくのだろう。いま、法人減税を進めようとする政府に対して与党が抵抗しているようだが、ローカルビジネスからの税収でこの国は生きていかれるのだろうか、などと考えた次第。
株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水 祐孝