会長コラム“展望”

プロゴルファーの教え

2013/10/31

個人的価値観

 先日、学生時代の先輩の取りはからいで著名なプロゴルファーとプレーをさせていただく機会を得た。現在はシニアツアーで活躍中のプロは、レギュラーツアーでも複数の優勝経験があり、ゴルフ好きなら誰でも知っている名プレーヤーである。

 プレーや食事をしながら、プロからさまざまなお話を聞かせていただいたのだが、そのひとつひとつが示唆に富み、非常に勉強になった。残念ながら、プレーについてのアドバイスはゴルフの上達にさほどの情熱を持たない月イチゴルファーを激変させるほどのものではなかった(もちろん、問題はアドバイスにあるのではなく私のゴルフに対する情熱にある)が、おそらくはトップアスリートしか持ち得ないであろうモノの考え方や視点は、事業におけるマネジメントにも大いに共通していることに感銘を受けた。


 プロは以前、盲目のゴルファーとプレーした経験があるという。当然、ボールがどこにあるかは見えないのだから、まずはスイングをする構えを取って素振りをし、そこに介添えをする人がボールを置くのだ。すると盲目のゴルファーはボールをきちんととらえ、見事にボールが飛んでいくのだという。このシーンを目の当たりにしたプロは、「構え方とスイングを分けて考える」ことに思い至ったという。

 それまで、一般的なゴルフ上達のセオリーに従って、手や肩、腰をどう使う、などとスイングについてさまざまな問題点を捉えてきたが、そもそも構え方が打つごとにバラバラの中では、そのような一般的なセオリーに従った指導法は意味をなさないのではないかと考えたそうである。そして、安定した構えができた上で、それぞれのプレーヤーなりのスイングをすれば、ナイスショットが可能になるはずだと言うのである。


 目の前に解決したい問題があるとき、私たちはその問題について深く考えることをせずに、思いついた順に修正を加えようとする。しかし、そのようなアプローチで問題の解決が得られるかと言えば必ずしもそうではない。ゴルフのスイングで手の位置だけを修正しても、それは「手の位置だけ」に問題点があるハイレベルなゴルファーには通用しても、ほとんどのアマチュアプレーヤーには問題の解決につながらない。他にも修正すべきポイントが山ほど存在しているからである。プロは、ナイスショットを得たいアマチュアゴルファーに対して、「構え」と「スイング」を分けて考えることで、問題解決へのアプローチを探ることを教えてくれた。解決したい問題があるとき、問題点をきちんと分けて考える、そして重要なポイントに絞り込んでそこを修正していく。何より、そのことに気づくという力がトップアスリートたる所以であろう。


 もちろん、練習時間をたっぷりと取って、プロやアマチュアの頂点を目指すようなゴルファーに対してはもっと綿密な指導法を採るであろう。しかし、多くのアマチュアゴルファーが得たいのは、気持ちよくゴルフを楽しむこと、普段の自分のレベルより少し上のプレーができることなのである。私はゴルフが下手である。それは「構え」「スイング」がきちんとできていないからである。しかし、「構え」「スイング」の修正が私のゴルフの問題解決につながるのだろうか。いや、それでは浅すぎるのだ。そもそも「構え」「スイング」ができていないのはなぜか。それはレッスンを受けたり、練習場に通ったりするなどの、上手くなるための活動をほとんどしないからである。より正確に言えば、レッスンを受けたり練習場に行くことはあっても、その活動を続けることができないからである。さらに言えば、そこまでして上手くなりたいという情熱が不足しているからである。

 このように、私がゴルフが上手くならない理由の根源にはゴルフに対する「情熱」や「継続力」という問題が横たわっているのだ。この根源的な課題を修正しない限り、私はゴルフが上手くなると思えない。どうやら私は、そこまでゴルフが上達することを重要視していない、というところに行き着く。


 世の中には、このように問題を深く掘り下げることなしに、枝葉末節の問題に取り組む人が少なくない。しかし、トップマネジメントやトップアスリートを目指すのであれば、不断の努力のみならず、問題解決へ向けた深い思考がそれと同じくらい重要だということを改めて痛感した。


 プロがシニアツアーで優勝したという。なんだかとても嬉しく感じるとともに、勉強させていただいたことに感謝を申し上げたい。


株式会社 鎌倉新書

代表取締役社長 清水祐孝