2014/04/30
社会
「せっかく5回も会ったのに、ツイてないよ!」安倍首相は地団太を踏んでいるのかもしれない。ロシアのプーチン大統領と親密な関係を築き、北方領土の返還に向けて道筋をつけようとしていた矢先に、ウクライナ問題が勃発してしまったのだ。オリンピックの開会式ぐらいはこっそり出席しても、大きな問題にはならなかった。ただ、一国の主権を左右する戦時レベルの問題では、西側諸国と歩調を合わせないわけにはいかず、ロシアに対する経済制裁を科さざるを得ないのである。実にタイミングが悪かった。日ソ平和条約を締結して、北方領土返還への交渉に目途がつくまでは、このような余計な問題は起こってほしくなかった、というのが正直なところだろう。
日本人にとって「ツイてないよ!」というシーンは、ウクライナ問題のひと月前にも同じロシアの地で見られた。ソチオリンピックでの、スキージャンプの高梨沙羅選手やスケートの浅田真央選手などがその代表だ。いっぽうで、運良く表彰台に上り母国の人々からの喝采を受けた選手もたくさんいた。オリンピックはさまざまなスポーツ競技の世界一を決めるイベントであるが、その場所は「運が良かった、悪かった」「ツイてる、ツイてない」の大お披露目会でもある。そもそも、それぞれの競技でメダルを狙うような選手たちの実力は拮抗しているわけだから、競技を何回かやればそのたびにチャンピオンは入れ替わるだろう。そういえば、東大の入学試験だって、何回やっても合格するのは上位の3割程度で、残りの7割は試験をやる度に入れ替わる、なんて誰かが言っていた。
同じ目標を持ってチャレンジしても、運良く勝者になる人、運が悪くなれない人、そこに有意な差を見出すことはできない。私たちには自らの力で到達、達成できることと、自分の力ではコントロールできないことが存在しているのだ。ゴルフのティーショットでも、たくさん練習すればフェアウェイにボールを打てる確率を上げることはできる。でも、たまにボールがまっすぐに飛ばなくて、林の中に打ち込んでしまった時に、林の奥深いところの木の根元にボールが落ちるか、木に当たってフェアウェイにボールが出てくるかなんてタイガーウッズだってコントロールできない。
ビジネスも同様だ。
経営者は成功を勝ち得るためにさまざまな努力をするけど、結果はまちまち、努力の質量と必ずしも相関関係はない。例えば、楽天の三木谷社長はオンライン上のショッピングモールというビジネスを立ち上げ、わが国でナンバーワンのポジションを得た。しかし、それは能力や努力だけで得られるものではなく、同時期にさらに優秀なビジネスモデルを描くライバルがいなかったことや、グッドタイミングで日本のブロードバンドが普及したこと、等々のコントロールできないこと、つまり運が味方したからこその産物である。もし彼が3年前に生まれていたら、オンライン上のショッピングモールというビジネスモデルは早すぎて、普及する前にキャッシュが尽きたかも知れない。また、3年後に生まれていたら、別の人が同様のビジネスを普及させ、参入の余地がなかったかも知れない。
いろんな人に聞いてみたが、成功した経営者の中で自らの力だけで成功したと思っている人は実に少ない。ほとんどの人はたまたま運が良かったからだと答えてくる。そんな成功者たちにとっての次なる重要な課題は、どうすれば、この運を持続させられるのかということ。そこで、占い師や拝みの専門家にアドバイスを求める人もいる。返報性の原理(何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情)が働き、社会に向けて奉仕活動を行う人もいる。とはいえ、必ずしもそれで望みが叶えられるわけでもない。
運はどこからやってくるのだろう?と考えても、答えは不明である。
私たちには自らの力で到達、達成できることと、自分の力ではコントロールできないことが存在している、これは間違いない。で、目標に向かって日々精進すること、そしてそこから生まれた結果についてはできる限り頓着しないこと。出来るわけはないが、知ってはおこう。最後は何だか、お坊さんの法話みたいになってしまった。
株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水 祐孝