2020/06/01
社会
爆発的な感染者数の増加が一段落し、直近では明確な減少傾向を見せている。数日前には39の県では緊急事態宣言が解除されたので、今後は人々の生活がコロナ以前の状況に少しずつ戻っていくのだろう。
もちろんコロナウィルスがこの世に存在しなくなったわけでも、ワクチンや治療薬が開発され、それらが容易に入手できるような状況になったわけでもないので、再拡大のリスクは消えたわけではない。
さてこの間、これまで経験したことのない危機に直面し、世界では国や地方自治体のレベルで、さまざまな対策が取られてきた。それらには上手くいったもの、上手くいったように思えるものもあるいっぽう、愚策もたくさん出回っているようだ。そして対策は、純粋に感染拡大の防止という観点だけではなく、それぞれの意思決定機関のトップの地位保全(トランプさんとか)や教勢拡大(小池さんとか)という目論みがミックスされているように思えて興味深い(まあ、世の中こういうものだ)。
同時にこれらに対する意見や評価も世間を二分している。わたしはTwitterなんてこれまではほとんど利用したことはなかったが、コロナ対策に関する議論を(テレビは見ないので)このようなSNSを通して収集していると、いろいろな立ち位置、バックグラウンドの人がいろいろなことを発言していて、これまた見ていて飽きない。例えばであるが、そもそも公衆衛生の専門家と経済の専門家は拠って立つところが異なるわけで、彼らの議論が噛み合うわけはないんだよなあ、なんて思いながら画面を見ている。
さて、このような議論に参加できるような知識や専門性をもたないわたしではあるが、自分なりに考えなきゃいけないなと思うことはある。それは、今回のコロナショックが歴史上の大きな転換点になる可能性についてだ。
このショックを一過性のものだと考えることもできる。確かに感染者が減りワクチンが行き届くようになれば、人々は元の生活に戻るのかも知れない。そうであれば良いのだが、もしそうではないとなると、未来はどのように変わっていくのだろう。今回のコロナショックを、何らかのメッセージなのではないかと受け止めてみることも悪いことではない。わたしがそう思うのは、既視感があるから。それはインターネットが普及し始めた頃、つまり今から思えば大転換期に、これから何がどう変わっていくのだろうと自分なりに考えた、その頃と重なり合う。
あの頃、インターネットがもっと普及していけば、出版という情報の伝達手段の一部が取って代わられるのではないかと考えた。当時わたしたちの会社は出版ビジネスで食べていた。もちろん、出版がなくなるとまでは思わなかったが、将来は半分ぐらいになってもおかしくないのではないかと考えた。そこでインターネットでビジネスができないものかと考えわたしは勉強会に出かけ、技術に明るい人に仲間に加わってもらった。あれから20年が経ち、当たらずといえども遠からずといった世の中になり、わたしたちの会社の出版事業の比率は1割を切った。
もしも、今回のコロナショックが大転換期であるとするならば、これからどのように社会や会社は変わっていくのだろう。ザクッとしたアイデアであるが仮説を持っておくことは悪いことではなかろう。
コロナショックはリモートワークの導入を一気に加速化させた。リモートワークの拡大の流れは、徐々に進行中ではあったが、図らずもその最大の功労者はコロナウィルスだった。そしてこの流れは元には戻らない。雇用を増やしても、オフィススペースを増やす必要はなくなり、業務次第では遠隔地に住む人を雇用することができる。顧客や取引先との面談も一部はオンライン化し、オフィスや会議室は「たくさんは要らないよね」ってことになり、出張も半減する。
働く人にとっては自由の拡張がもたらされる。いっぽうで、現状は導入に留まっているリモートワークの次のステップは企業側のモニタリング能力の向上となるであろうから、人材の優勝劣敗が進むだろう。いっぽいうで最近、「完全にリモートワーク化しました」などという社長を見かけたりするが、それは「意思決定を自分1人でやってます」と宣言しているようなもの。企業はリモートワーク化というトレンドを盲信してはいけない。そのメリットとデメリットを短中長期それぞれの観点から考え抜き、その活用法を見出した会社が、次の時代の勝者となるに違いない。
3密の回避や店舗営業の自粛はオンライン販売や巣ごもり消費を加速化させている。これもコロナウィルスの功績。インターネットでの買い物は、その裾野の広がりと売り手の販売技術の向上とが相まって年々増加傾向を辿っていたが、これもコロナが加速化させている。そして、いったんそれに慣れてしまったら消費者は元へは戻れない。実際コロナは、店舗、従業員、在庫を抱えた小売業のJCペニーやニーマン・マーカス、そして製品や在庫を抱えたメーカーのJ.クルーやレナウンといった有名どころにとどめを刺した。体力が落ちていた企業が倒れただけではなく、これは始まりに過ぎないと考えるのが自然。オフラインビジネスの世界では、総合ではなく専門、そして製造から小売までを一気通貫でやれない企業は基本的に淘汰されると思った方が良いだろう。そして、人と人との交わりかたの変化は、生活必需品以外の例えばブランド品のような自己顕示欲を満たすための消費も「別に要らないんじゃない」って方向をもたらすような気がする。つまり、コロナウィルスは人々の旺盛な消費意欲を減退させる。そう考えると消費はいったいどこに向かうのだろう。
中国のような中央集権的な統制経済での成功事例が増える。いっぽうで政府の介入を最小限にして市場に競争を委ねるアメリカ型の市場経済が割を食うケースが頻発している。コロナウイルス騒動の火元である中国がこれを抑え込みつつあるのに立腹していることもあって、アメリカによる中国叩きが本格化しだした。でも力を付けた中国だって負けていない。このことは過去数十年間に及ぶグローバル経済の終焉を意味することになるのかも知れない。グローバル経済からブロック経済への移行が懸念される。ブロック経済は、過去においても戦争を誘発しているのだから、最悪の場合これから30年ぐらいは不安定な暗い時代が続くのかも知れない。ちょっと心配しすぎだけど。
変化は同時にチャンスでもある。これまでは、変えられなかったことがこの変化を活用すれば一気に変えられるという側面もある。規制でがんじがらめのわが国の社会構造を変え、規制緩和への道を踏み出すことで、自らの花道を飾って欲しいなあ、ねえ安倍さん。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝