会長コラム“展望”

若い人たちに伝えたいこと

2013/12/28

個人的価値観

新年おめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

先日、2015年度の新卒採用の合同説明会で、企業側のスピーカーとして参加させていただく機会があった。本来は優秀な人材を採用するべく会社の魅力を伝え、学生たちに興味を持っていただくような話をしなくてはならないのだが、若い諸君を見ていると自らの学生時代を思い出してしまった。そこで直前になってテーマを変え、学生時代の思い出話を含めて、これからの時代に社会に巣立っていく若者たちにどのような心構えが必要かというとても個人的な意見を話させてもらった。終わってみると短い時間のスピーチがその話ばかりになってしまい、会社の宣伝がほとんどできなかったのは痛手だったが、筆者の話に共感していただけた学生がいたので、結果的には良かったと思う。

わたしが大学を卒業したのが1986年。この時期、企業の採用意欲はとても旺盛であったので、ほとんどの同世代の仲間は就職活動に苦労しなかった。そして多くは都市銀行、生損保、商社や大手メーカーなどの大手企業に就職していった。なかでも都市銀行の採用意欲はとりわけ旺盛で、私の大学時代の仲間の多くが就職したように記憶している。今でこそ、都市銀行はわずか4行になってしまったが、当時は13行もあって日本経済の中での存在感はとても大きなものだった。しかし、バブル経済が行き詰まり、1990年代後半から2000年代の前半には破たんしたり、吸収・合併によって生き残りを計るといった事態が相次いだ。吸収や合併が行われた銀行では重複するエリアにある店舗は統廃合され、重複するバックオフィス機能は、1つに集約された。その過程で、多くの有能な人材が浪費されてしまったであろうことは想像に難くない。

さらに時計の針を四分の一世紀戻してみよう。筆者が生まれたのは1963年。このころ米国ではカラーテレビが普及し、RCAやGE、ゼニス・エレクトロニクスなど20もの米国内のメーカーがしのぎを削っていた。しかしその後は、松下電器産業やソニーをはじめとする日本や欧州の企業にどんどん浸食され、1990年代には米国内のメーカーはすべて市場から撤退してしまった。RCAはGEに買収され、事業はフランスのトムソンに売却された。ゼニス・エレクトロニクスは韓国のLGに買収された。さて、松下(パナソニック)やソニーなどアメリカのテレビメーカーをことごとく駆逐した日本の家電メーカーではあったが、それから数十年たった今、世界シェアはサムソンやLGに奪われてしまい、日本の大手家電メーカーは全く存在感を示すことができない立場に陥っている。

結局、企業あるいは事業は社会に向けてさまざまなニーズを生み出し、あるいはニーズに応えることにより大きく成長する。しかし、社会は常に変化しているわけで、ニーズが減ったり、なくなったり、あるいは供給が激化するなどの事態は常に起こってくる。結果として変化に対応しきれない企業は淘汰の憂き目に遭う。企業や事業はそこで働く個人を幸福にしてくれるわけではないのだ。

そして現代におけるIT化やグローバル化は、このような社会の変化のスピードを加速化させている。つい最近まで携帯電話において圧倒的な世界シェアを誇っていたノキアは、スマホ化という世界のメガトレンドに取り残され、マイクロソフトに買収されてしまった。ブラックベリーで一世を風靡したリサーチインモーションも、同様に今では身売り先を探す立場になってしまった。

社会の変化が激しくなる中で、事業や企業の賞味期限はどんどん短くなっているのだ。一方で、若者は20代の前半で社会に出て、おおよそ半世紀は仕事によって生活の糧を得ていかなくてはならない。今のわが国の年金財政を鑑みれば、若者が年金を支給されるようになるのは、きっと70代の半ばだろう。長期化する個人の就業期間に対して、企業や事業の賞味期限はどんどん短くなっている。そんな中では、生涯を1つの会社で過ごすことができる人はレアケースになるわけだ。終身雇用は実質的に死語となるのだ。

つまり、これからの社会で生き抜くためには、会社に依存しない個人になるしか手立てはない。自らが、半世紀という長期にわたって生き抜くために、どんな武器を持つべきか、その武器はどんなキャリアから得られるのか、現代の若者は真剣に考えなくてはならないのだ。

会社の説明や宣伝なんかをするよりも、まずはわが国の若者が直面するこの事実を伝えなくてはならない。結果的に企業説明会としては機能しなかったけれど、就職説明会を通して、このことを伝えていきたい、そのように確信したいい機会だった。歳を取るといろんな役目を負わされるものである。

株式会社 鎌倉新書

代表取締役社長 清水 祐孝