2014/07/31
ビジネス
さすがに、コンピューターや携帯電話で文字変換のボタンを押しても出てこないだろうが、「終活」というワードは最近とてもポピュラーになった。そして、その流れなのだろうか、テレビや新聞などで葬儀やお墓のことが報道されることも珍しくなくなったようだ。報道だけでない、高齢者を対象にしたいわゆる終活セミナーや、講演会などもあちらこちらで頻繁に行われ、けっこう多くの参加者でにぎわっているという。
先般、資産家を対象としてさまざまなセミナーを行う大手金融機関の方から聞いた話によると、「終活」に関するテーマはこの層に対して最も関心が高い分野のひとつなのだという。そういえば、大手の新聞社からも一昨年から終活に関する専門誌を定期的に発刊していて、好評を得ているという。「終活ブーム」とまで命名されたこのような現象を見て、単純に「わが国は高齢者が増えているのだろうな」程度で片づけてはいけないと思って、今月のテーマとさせていただいた。
下記の表は、1985(昭和60)年と、その25年後である2010(平成22)年の、世帯人員(ひとつの世帯に何人暮らしているか)の順位である。
昭和60年
第1位 4人(23.7%) 第2位 1人(20.8%) 第3位 2人(18.4%) 第4位 3人(17.9%)
平成22年
第1位 1人(32.4%) 第2位 2人(27.2%) 第3位 3人(18.2%) 第4位 4人(14.4%)
この表は単純に家族(子ども)の数が少なくなっていることと同時に、家族があっても一緒に暮らさないケースが急激に増加していることを示している。さて、そこで想像して欲しいのだが、もし同じひとつの世帯に子どもが一緒に暮らしていたら、高齢者の多くは自らが亡くなった後の葬儀やお墓のこと、あるいは財産のことを一所懸命に考えたりするのだろうか。身近に、次の世代を託すことができる家族がいれば、「死んだらオレの遺骨は海に撒いてくれ」「葬儀は地味にやってくれ」程度のことは託すかもしれないが、わざわざ終活セミナーに出かけて、自らの葬儀について詳しく考えてみたり、お墓をどうするのかなんて考える人はそう多くはならないのだろう。そのような立場の人にとっては、「○○銀行に貯金はあるから、後のことはお前たちよろしく頼む」これで終活は終了である。
ところが、託す家族がいない、あるいは身近にいない、という人にとっては、自らの身にもしものことがあったらどうするのだろう、というテーマは決して軽いものではない。だって「後のことはよろしく頼む」という相手がいないのだから。
前掲の表に戻ってみよう。
昭和の終わりごろ、4人家族は標準世帯などと呼ばれていた。父、母、二人の子供という形態だ。ところが、その後は単身世帯や、夫婦のみに代表される2人世帯の割合がどんどん増え、4人家族は少なくとも今日の日本においては標準的ではなくなってしまった。そんな時代にあっては、年々増えるいっぽうの高齢者の単身世帯や夫婦のみの世帯は、自らの死後をどう設計するのか、真剣に考えざるを得ないのである。自らの死後のことを、知り、考え、そして場合によっては決めておく、これは子どもの世代に任せることができない人たちにとって人生最後の必須科目なのかもしれない。
「終活」などというと、就職活動の略称であるところの就活に模した言葉でちょっと軽い感じがするし、「ブーム」などとくっつけると、一時的な徴候のように思えてしまう。しかし、これは少子高齢化が進展するわが国社会の大きなトレンドであり、一過性のものではない。社会の変化が、家族構成を変え、そして個人の意識を変化させているのだ。そのように考えると、葬儀やお墓、資産の移転などという分野だけではなく、死生学などの広がりを持ちながら、社会に深く根付いてくる大きなテーマとなるのだろう。
株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水 祐孝