2020/07/01
組織
今回のコロナウィルスの騒動の中で、リモートワーク(今回からテレワークとした)について少し触れてきたが、いったん現時点での考察をまとめてみた。
2月末のテレワーク推奨に始まり、緊急事態が宣言された4月初旬には原則的にテレワークになった。慣れないスタイルでの業務ではあったが、いい機会でもあるので、この期間を実験期間と位置づけ、そのプラス面とマイナス面を考察することにした。今後はそこからの学びを、今後の私たちの会社における社員の働き方に反映させていきたいと考えている。
テレワークという働き方を考えるとき、これまで通常であった働き方と何が異なってくるのか、大きく分けると3つの論点があるように思う。①仕事のモニタリング、②社員間のコミュニケーション、③組織としての規律の維持、である。
①仕事のモニタリング
目の届かない離れた場所でちゃんと仕事やってくれるのって話は、逆に言えばモニタリングができていないってことでこれは働く人の側ではなく、会社の問題。なので、どんな仕事をしてもらって、どんな価値を生み出すのかが明確になっていればよいという話。むしろ、そのあたりで曖昧だった点が明確になることもあり、プラス面が多いのだというのが今回の学びである。いっぽうで、これを突き詰めると人材の優劣がこれまで以上にはっきりしてくることになり、その優勝劣敗が進む。Aさんがやっていた仕事をBさんに任せてみると、空いた時間にBさんはあっさりこなしてしまう、ということが発生する。Aさんはどうなるのだろうか……。
②社員間のコミュニケーション
価値は誰が生み出しているのだろうか。それは会社で働くすべてのメンバーである。ただ、注意しなくてはならないことは一人ひとりのアタマから価値が生み出されているケースもあるいっぽうで、複数の人の考えや思いつきの融合から生まれている場合も多いという重要な事実である。融合はコミュニケーションから生じ、それらはリアルなコミュニケーションから生み出される。これを組織論では「創発」と呼び、組織をマネジメントする立場からは、この創発現象が生まれるように、環境を整えることが重要とされる。テレワークは「リアルな」コミュニケーションを喪失させるから、これは重大な論点である。
例えば10人のチームがあったとすると、理屈的には2者間のコミュニケーションは10×9÷2=45本。これが以前から一緒に働く気心知れたメンバーであればリモートでもコミュニケーション量はほぼ維持されるだろう。さて、この中に1人の新しいメンバーがテレワークに加わったとする。その人はリアルな人間関係のない10人に向かって気軽にチャット等でコミュニケーションを取ることは可能だろうか。業務の指示・報告の必要性があるリーダーやメンバーへのコミュニケーションは当然としても、それ以外のメンバーとのそれは難しい。もっと極端なケースで、テレワークのもとで新たに発足したチームだと、極端に言えばリーダーからの9人に向けた9本のコミュニケーションラインしか確保されないということになる。これで新たな価値など創造できるのだろうか?
つまり価値創造という視点で見ると、新たな価値は職場のリアルなコミュニケーションによる創発シード(種子)の蓄積とその消費によって生まれているということなのだ。テレワークがうまく機能していると考えてしまうのは、単なるルーティンワークか、あるいはそれ以前に職場で蓄積されたシードの消費活動を行っているということに気づいていない、ということになる。テレワークではコミュニケーションの積み重ねによる創発が誘発されるような活動が行われないので、時間とともに新たな価値が生まれにくくなっていく。これは、わたしたちのように、誰もやっていないコンセプトの事業を行っていくという姿勢の会社には、たいへん厳しい問題である。さらに問題を難しくするのが、これらは全社視点、長期視点から見えることであって、事業部視点からは分かりにくいこと。だとすると、テレワークをどう取り扱うかについては、全社戦略を考えるマネジメントの専権事項といえるだろう。難しい物言いになったので、分かりやすいようにこの観点からテレワークを評価すると大雑把にこんなことが言える。
・ リーダーが人心を掌握し、気心が知れたチームはテレワークがやり易い
・ 固定化されたメンバーだとテレワークがやり易い
・ ルーティン化した業務だとテレワークがやり易い
・ 意思決定がリーダー一人に集中していればテレワークはやり易い
逆に言えば、
・ 新しいメンバーが多いチームはテレワークが難しい
・ ルーティンワークより新たな取り組みやチャレンジが多いチームはテレワークが難しい
・ みんなで知恵を寄せ集め、新たな価値を生み出すにはテレワークは不向き
・ 新入社員や中途入社の新しいメンバーにとって職場でのコミュニケーションは不可欠
③組織規律の維持
最後に「組織に規律は必要か」という問いにノーと答える人はまずいないだろう。集団で行うスポーツの世界でも、最高の成果を収めるチームは規律へのこだわりが尋常ではない、というのはよく聞く話である。テレワークでは規律が維持しにくいわけではないが、無策でいると空気感が緩む、という点は指摘可能だ。これについては、工夫をすれば大きな問題とはならないが、マネジメントは放っておくと生まれやすいこの空気感に無自覚であってはならないとは感じるのである。
以上、3つの論点からテレワークについて考えてみた。これらを踏まえて今後どのような働き方をわたしたちの会社は採用すべきなのか。
これまでの働き方とテレワークの特性をしっかり理解したうえで、それらの長所をうまく生かしながら、スマートな働き方を模索するという方向に進んでいくのだろう。実証実験を行ってみないとはっきりしたことは分からないが、感覚的には週に1~2回ぐらいのテレワークを行うことで双方のメリットを生かしながら、デメリットを最小限に抑えるということが可能なのではないかと考えている。コストの観点からは、テレワークがもっと進むと良いのかもしれないが、そう単純な話ではないことは、価値創造の世界トップ企業、例えばアルファベットのピチャイCEOやフェイスブックのザッカーバーグCEOなどの発言を見ても明らかなようだ。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝