会長コラム“展望”

消費税の引き上げについて考える

2012/05/01

社会


いま、政治の中心テーマは消費税率の引き上げ関連法案の行方である。これは2014年4月に現在の5%から8%へ、さらに翌年の2015年には10%に引き上げようというもので、社会保障と税の一体改革の名の元、民主党の仲間からの猛反対を受けながらも、トップである野田首相の強い意志で進められているものである。この法案をめぐっては、今後国会の場での大混乱が容易に予想されるのであるが、日本の将来を大きく左右する国家の意思決定として注意深く見守る必要があるだろう。

確かに、税率の変更という問題は私たち国民の消費生活に直結することであり、単純に考えれば税率は低い方が良いに決まっている。それなのに引き上げに賛成する人が一般国民にもそれなりに多いのは、これを行わなければ、(引き上げをしな いよりも)さらに悲惨な状況に国民が陥ることが予測されるからであろう。

長年にわたって歳入をはるかに上回る歳出を続けた結果、国の借金は 膨大な額に上っており、国家財政はいつ破たんの方向に向かっても不思議ではない状況にある。そんな国家の悲劇を、私たちは最近ギリシャ危機というかたちで 目の当たりにしたばかりだ。また、危機という点では社会保障制度も同様だ。デフレで所得は増えない、そして生産年齢人口が減り続ける中で、高齢者の比率は 上がり続け、社会保障費は年々おおよそ1兆円程度膨れ上がっている。この状況を放置していれば、日本も破たんは免れないことも容易に理解できる。

したがって何らかのかたちで歳入を増やさないとわが国は持たないことはこの程度の勉強でも分かることだ。もちろん歳入を増やさなくてもバランスを取る方向に向かう方法もある。この歳入と歳出のギャップを埋める方法として歳出を減らすことができないのか、という意見だ。実際に、増税より先に歳出削減をやるべきという意見は、増税反対派の多くが唱えるところであり、民主党は過去におけるマニフェストの中で歳出の見直しを声高にうたっている。しかし、実際はほとんど何もやっていない。


確かに歳出削減は当然のこととしてもっと力を入れてやるべきことだと思う。でも問題がある、できないのだ。

今の民主党政権には(というか既成政党には)、官僚が推進を手伝ってくれる増税はできても、官僚が抵抗する無駄な歳出の削減を実行することはできない。その能力も強い意志もエネルギーもないのである。できることは、事業仕分けなどと呼ばれるパフォーマンスぐらいのものである。だから歳出削減を行うことは確かに重要だが、それを言うことは、ないものねだりをしているということなのである。そして、悲しいことに政権は当分、このできない人たちに委ねられているのである。

であるならば、せめて我が国が危機に陥る前に国家財政のバランスを多少なりとも改善しておいたほうが良いだろう、というのが賛成派の論理である。

次に、税収を増やすためには消費税以外にも、所得税と法人税という基幹税がある。しかし、この両者は税率を上げたところで、税収は増える保証はないという特性がある。所得が増えない中で税率を上げれば、手取りが減り、消費者のマインドに影響を与えてしまう。法人の所得に対しての課税である法人税も、現在世界の中でも最も高率であり、それを上げることは全くと言っていいほど現実的ではない。経済はボーダレス化しているわけだから、我が国の産業の競争力を失わせ ることにもつながるわけだ。また企業の国外への移転を促進させることにもなる。そうなれば、次に雇用が失われるというマイナスのスパイラルに陥ってしまう 危険性がある。むしろ法人税については、世界が引き下げ競争を行っている状況にある。わが国もわずかながら引き下げの方向に動いていく中で、これを税収増 に結び付けることは難しい。

このように現実的に考えれば─言いたいことはいっぱいあるが─やむを得ない選択肢としての消費税増税はいくら国 会が紛糾しようとも成立し、私たちは受け入れなくてはならないのであろうと感じている。葬儀はあらかじめ購入できないが、仏壇仏具、墓石業などの高単価の個人向け消費財を扱う企業からすれば、増税前の駆け込み需要と、増税後の落ち込みが予想されるわけだ。