2013/06/30
社会
先日、ニュースを見ていたら「アップル 課税逃れを否定」などというテロップが流れている。内容は、アイルランドに実体のない子会社をつくってそこに利益を移すことで、米国内での課税を逃れていたのではないかという疑惑を米議会上院の調査委員会が指摘したというもの。これに対して、アップル社のティム・クック最高経営責任者が公聴会で疑惑を否定、アップルは米国有数の高額納税企業であるとし、課税回避の事実がないことを証言したというニュースだ。
このところ、企業を対象、いやもしかすると標的にしたと思えるような報道やイベントを頻繁に目にするようになった。思いつくものでは、こんなようなものがあった。
スターバックス
ロイター通信が世界最大のコーヒー店チェーンである、スターバックスコーヒーのイギリス法人が過去3年間、法人税をまったく納めていないとスクープした。これをきっかけに市民が同社に対する不買運動を起こす騒ぎとなった。ブランドイメージの悪化を恐れた同社は、利益の有無にかかわらず自発的にイギリスに法人税を納めるという懐柔策を提示して、この問題の火消しに躍起になっている。<br />
ワタミ
これは『週刊文春』の報道。何年か前に、ワタミが運営する老人ホームに入居していた男性が不適切な介護によって死亡するという事件があったという。この問題についての遺族との話し合いの中で、同社の創業者である渡邉美樹氏は「1億欲しいのか」と言い放った、というもの。また、同社については、過去に社員が過労のため自殺した事件があったことなどから、一部の人たちの間でブラック企業と呼ばれているという。そんな状況の中で、渡邉氏はこの7月に行われる参議院選に自由民主党から出馬することが明らかになり、マスコミに格好の話題を提供している。『週刊文春』は、ホームページ上で緊急アンケート「あなたはワタミをブラック企業と考えますか」を実施している(何とこのアンケート、商品券1万円が10名に当たるという。ただし、その後当該ページは突然削除)。
ユニクロ(ファーストリテイリング)
「ブラック企業 日本を食いつぶす怪物」の著者であるNPO法人の代表が、ユニクロから「警告状」を受け取っていたことを明かした。同書で、匿名のアパレル会社として、ユニクロの実態を紹介したことがきっかけと報道されている。警告書は『文藝春秋』に掲載された同氏の記述に対して、ユニクロから届けられたもので、文書によると記述内容に事実の相違や虚偽があることを指摘した上で、著者に対して警告を行い、場合によっては「法的責任の追及」も辞さないとしているという。
アップル、スターバックス、ワタミ、ファーストリテイリング、いずれも日本やアメリカを代表する巨大企業であり、多数の従業員を雇用し、多額の税金を納めることで社会に対する貢献度はとてつもなく大きい。一方で、いずれも強烈な個性を持つ経営者が一代で築き上げたという共通項がある。つまり、創業者の強烈な指導力が負の遺産を生んでしまったと考えられないわけではない。<br />
ただ、アップルやスターバックスを巡る税の問題にしても、経済がグローバル化する中で、国家間の調整の不備から、公平な徴税体制が確立されておらず、そこを上手に活用した企業だという見方もできる。そもそも、企業はその価値を最大化することを株主から求められているわけだから、合法的な節税は株主に対する義務とも考えられるわけだ。
ワタミやユニクロにしても同様で、企業価値を継続的に向上させることが経営に課せられた役割だから、従業員に対して厳しく成果を求めることは当然の行為とも考えられる。しかし、それが行き過ぎていないか。あるいは行き過ぎてしまうような体質が企業の遺伝子として組み込まれているのではないかというのが、批判する側の論理だろう。
いずれにせよ、これらのトラブルには法的に解決が可能な部分と、「あなたたち倫理的にこうすべきなのじゃあないの」みたいな部分とが混在しているわけだ。法的に解決すべき点はそのように処理されれば良いのだと思うし、倫理を問うものについては、主張し合ったところで、平行線をたどるのだろうと思うわけで、これらの対立する主張のどちらが正しいという個人的な意見はない。
このように、社会はさまざまな立場、視点、感情が渦巻く劇場のようなところで、結局は何が正しいかは多くの場合明らかにはならない。でも、それでは困るというケースについては「法やルール」なるものをつくり出し、正しさを仮決めしている。だけど、仮決めができない問題は結局のところ放置され、そのうち第三者の記憶からは忘れ去られる。
そんな社会で私たちに必要なのは、「マスコミ」「政治家」「大衆」などのような影響力が大きく、だけどどこか一方的な主張に流されることなく、さまざまな視点を持ち、自らが考え、自らの意見を形成できるようになること。社会という「劇場」を楽しく観賞する技量を身に付ければ、包容力を持った品の良い人生を過ごすことができる。そう思いませんか?
株式会社 鎌倉新書
代表取締役 清水祐孝