2022/12/01
ビジネス
ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正社長は、ビジネスマンなら知らない人がいないほど著名な経営者の一人だ。最近、経済雑誌を読んでいてこの会社、というか柳井社長に対する新たな気付きがあったので、そのことを書いてみたい。前々回は稲盛和夫さんのことを書いたから、尊敬すべき先輩経営者シリーズのパート2って感じかな。
ユニクロ「最高益」更新へ
値上げでも客足維持の底力
10月29日付の東洋経済にこんなタイトルの記事があった。要約するとこんな感じだ。ファーストリテイリングの2022年8月期決算は売上・利益とも過去最高を更新した。国内ユニクロ事業は減収で利益横ばい、また中国大陸では減益だったものの、北米が黒字化、欧州でも黒字が安定化してきた。原材料高と円安の影響によるコスト高を受けて値上げを行っているものの、大きな影響はなく「良品適価」が受け入れられつつあることから、2023年8月期も2期連続の過去最高を見込んでいる。
さて、ほとんどの人は「なるほど、ユニクロは好調なのね」っていう程度の感想だっただろう。だが私はこの記事を読んで感銘を受けた。それは以下の2つのフレーズである。
北米事業は05年にスタート。ニューヨークの5番街など一等地に店を構えるも、15年以上赤字を脱却することができなかった。
20年以上の歴史がある欧州事業も収益性が振るわなかったが、黒字で安定した。英ロンドンや仏パリなど主要都市で、歴史的な建物に「グローバル旗艦店」を積極的に出店したことが奏功したためだ。今やグローバル旗艦店は欧州ユニクロの営業利益の半分を稼ぐまでに成長したという。
そこにあったのは「えっ、15年も20年も赤字を許容し続けたの」という新鮮な驚きだ。重厚長大の産業ならまだしも、アパレル小売業で一つの事業がこのような長期にわたって赤字を垂れ流し続ければ、普通は「撤退しましょう」ってことになるだろう。「(人種、嗜好、商習慣が異なる)欧米は諦めて(同質の)アジアで頑張りましょう」みたいな。ましてや上場企業である。短期的な収益を求める株主もいれば、オーナーのビジョンを深くは理解しない社内外の取締役もいるわけだ。仮に良くある日本の上場企業のように「社長の任期は不文律で6年」みたいな会社だったら、事業をスタートさせた最初の社長はもとより、次の社長でも、下手したらその次の社長でも黒字化しないってことだ。要はこのようなチャレンジはサラリーマン社長では無理なのだ。そして、自らの任期中に黒字化する程度の新規の取り組みしか行わないのであれば、そこに大したブレークスルーは生まれない、当たり前のことだ。
柳井さんの場合はオーナーだから、このような長い取り組みができたってことではあるのだが、それだけでは洞察が足りない。単なるオーナー企業ではなく、バックに大きな志があるってことが重要なのだ。インタビューなんかを読むと柳井さんは常々「世界一を目指す」ってことを語っている。要は「世界一を目指す」という志があるから、たとえ時間が掛かったとしても欧米で成功するというチャレンジを投げ出すわけにはいかなかったということだろう。う~ん、勉強になるなあ、私も今一度、深く考えてみようと思う。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝