2019/12/01
ビジネス
「社会貢献団体ガイドブック」なる書物を刊行した。非営利の事業を行う150団体を、どのような理念、どのような活動を行っているかを中心に、事業概要等も含めて取材し、社会貢献活動を推進するさまざまな団体を紹介したものだ。
発刊のきっかけは、自らの資産の一部の寄付を検討している高齢の夫婦から相談を受けたことに始まる。彼らは、これからの日本の国で生きていく青少年や、生まれてくる人たちにとって役立つであろう活動をしている団体に支援をしたいと思っていたようだ。しかし、具体的に彼らにとってどの団体か適切か、という点について考えあぐねていた。社会貢献を標榜する非営利団体はたくさんあるが、それらをサーチする手立てを持っていなかったのだ。
その話を聞いて「このご夫婦のように、支援活動はしたいけど、自分たちの価値観に見合った活動を適切に行なっている団体はどこにあるのだろうか」という疑問を持つ人たちはいるだろうし「今後も増えるのではないか、そのような人たちに情報提供が必要なのではなかろうか」、そう考え発刊に至ったわけである。なぜなら、終活の支援を標榜するわたしたちの会社にとって、社会貢献はとりわけ重要な事業領域だからである。次の世代を担ってくれる家族がいない人はもちろん、家族関係が変化していく現代の社会において、このようなことを考える高齢者は増えこそすれ減りはしない。
社会貢献—この言葉は他人様や社会の益のために、自らの益を投げ打って行う活動といったニュアンスを感じる人が多いと思う。しかし、それは言ってみれば狭義の社会貢献であり、もっと広義の社会貢献は存在しているのだとわたしは常々思っている。社会貢献はわたしたちが日々行なっている活動なのだと。
企業を通しての社会貢献についてわたしは以下のように考えている。
1.事業を通じた直接的社会貢献
企業が提供する商品やサービスは、それ自体が社会に有益であり、かつ顧客を満足させるものであるべき。商品やサービス自体、あるいはその提供がそのまま社会に貢献しているということである。
2.企業の発展を通じた社会貢献
上記のように有益な商品やサービスを提供していく中で、企業が発展成長をすること。
具体的には売上を増やす、雇用を増やす、利益を増やす、の3つである。
売上が増えれば、取引先に対する支払いも増える。同時に雇用や社員の所得を増やすことにもつながる。そうすると取引先も同様な行動を取り、この連鎖により経済活動は活発化する。雇用が、また所得が増えれば消費が増える。消費が増えれば、その流れは巡り巡って企業を潤すことにつながり、それがまた雇用、所得を増やすという好循環を生み出す。同時に雇用、所得が増えれば、消費税や所得税等を通して国や地方の税収が増え、社会の必要な部分に資源が行きわたる。例えばインフラの整備や福祉の充実が可能となる。
そして企業が決算期を迎え、利益が増えれば、これまた国や地方の税収が増える。同様に税を通して社会の必要な部分に、適切な手当てを行うことができる。このように、企業はその活動自体、あるいはその成長発展が社会貢献そのものであるのだ。
3.事業の中で気づいた社会貢献
企業は事業活動を行っていく中で、さまざまな気づきに遭遇する。
社会にとって有益、かつ事業として有望なものもあれば、社会にとって有益でも利潤の追求という目的を持つ民間の事業には馴染まないこともある。これを、事業として成立しないからといって無視するか、そこでもう一度考えてみるかは大きな分岐点だと思う。なぜなら今日の顧客は、ただ商品やサービスを消費するのではなく~特にわが国のような成熟した消費国においては~その企業の商品やサービスの背景にある思いやストーリー、あるいは企業姿勢を消費するからだ。
例えばカバンは、ある地点から別の地点までモノを入れて運ぶための道具である。機能だけであれば、そのカバンが高額になる必要はない。なのに、あの有名なエルメスは100万円でカバンを売っている。そして彼らは「ウチはもっと安くしますよ」という活動にコストを掛けることなど一切しない。ひたすら優れたデザイン、優れた品質の製品を提供し、企業の思いやストーリー、姿勢を維持、増強するのだ。お金になることだけやっていたら、こんな企業には絶対近づけない。一貫した企業姿勢を示したいと考えたときに、お金になることはやるけど、ならないことには(たとえ重要なことでも)一切興味はない、というのでは姿勢は顧客に伝わらない(そもそもそのような姿勢がない)ということになる。
というわけで、このような領域については、長期的な視点で企業活動にマイナスの影響を与えないことを条件として、わたしたちは積極的に取り組んでいきたいと考えている。そのささやかな活動の一環が今回の社会貢献ガイドブックの発刊ということになる。
2つ目までは企業が意識すべき基本問題で、3つ目は一部の企業だけが解ける応用問題、だけどここで差がつくって感じ。社会貢献は一部の人間だけが行う特別な活動ではなく、わたしたちが日々行っている活動であること。その視点を広げたところに個人や企業の成長があることを伝えていきたいと思う。わたしたちもまだまだ未熟だが意識していきたい。まずは社内への徹底浸透からかな。
株式会社鎌倉新書
代表取締役社長兼会長CEO 清水祐孝