2024/02/01
組織
書店に行く機会がめっきり少なくなった。これは私だけではなく、多くの人がそうなっているはずだ。Amazonに代表されるようなオンライン書店の台頭や、Kindleのように書籍をタブレットやスマホで読むことが市民権を得つつあることもあるだろう。また、そもそも書籍を読むこと以外の方法(web上に存在するさまざまな情報源)で情報を得る行為が普及してしまったこともその要因だ。そして、こうした社会の変化の影響を受けて、リアルな書店ビジネスの成立余地が狭まり、結果として店舗自体が減ってしまったことも人々が書店に行く機会を減らすことにつながっている。
私が勤めるオフィスの近くにも八重洲ブックセンターという大型店舗があったのだが、昨年閉店してしまった(再開発のための閉店で将来はまた営業する予定というが、東京駅前という好立地で書店を続けることがビジネスとして適切かどうかは疑わしい)。
以前は2週間に1回ぐらいは書店に行っていた。もちろん、目的の書籍を購入するためという時もあったが、多くの場合「何か面白そうな書籍はないか」というのが動機だった。書店は目的の書籍を購入する場でもあるのだが、書籍との出会いの場でもあった。リアルな書店での「立ち読み」という行為は、情報の提供者とそれを求める人との仲介機能の役割を担っていたのだ。この仲介機能を代替すべく、Amazonもオンライン上で書籍の情報を充実させるなどの手は打っているようだが、現在のところ、リアルな書店でのこの「立ち読み」という機能を凌駕するには至っていないように思う。そう考えると、リアル書店が減っていくことは残念至極、個人的にはせめて歩いて行かれるもう一つのリアル店舗である日本橋の丸善にはぜひとも生き残ってほしい。
とまあ、前置きが長くなってしまったが、昨年末に久しぶりにお正月休みに読む書籍を仕入れようと書店に行った際に購入した1冊の書籍について触れてみたい。この書籍のタイトルは『ラムズフェルドの人生訓』、奥付を見ると2023年7月末に刊行されたもので、発売当時話題になったのかどうかはわからないのだが、初めてこんな書籍が出ていることを知った。著書はご存じの人も多いだろう、フォード政権やブッシュ(息子のほう)政権で国防長官を務めたアメリカの著名な政治家(故人)である。
タイトルは「人生訓」となっているが、内容は「組織におけるリーダーの心がまえ」といったほうがわかりやすいだろう。世界で最も優れた組織においてリーダーとしての役割を担ってきた著書の経験やそこから生まれた考えはめちゃめちゃ勉強になる。例えばこんな一節がある。
私は、国防長官時代、不適切な人物を陸軍のトップに据える大ポカをやらかしている。元陸軍准将のトムホワイトを陸軍長官にしたのだが、彼は、大統領(および私)の代理人として陸軍を指揮監督するのではなく、陸軍の代表として私にもの申すことが自分の仕事だと勘違いしていたようだ。
企業においても、全社の視点とひとつの事業部の視点とは異なる。自らの意見を持っているということは、そうでないことに比べると望ましいことには間違いない。しかしそれが狭い視野から生まれたものである場合には、注意が必要だ。広い視野から考え抜かれたもので、そのうえで優先度が高いものについての意見が初めて採用されるのであって、そのような見地から発せられていない、だけど良い意見というものが採用されるとは限らない。組織のリーダーをやっていると、そうしたことに無邪気な人が意外と多いことに驚かされることが多いのだ。
大きな官僚機構は、欠員が出そうになったらなにも考えず補充しようとしがちだ。でも、職員が増えれば増えるほどコストもかさむし、トップと職員の距離も国民との距離も広がってしまう。欠員が出たらいったん立ち止まり、深呼吸して本当に補充しなければならない欠員なのかを考えよう。(略)なにも考えず補充してはいけない。たとえば勤続50年のベテランが辞める。しばらく様子を見るのだ。その人がしていた仕事はほかの誰かにもできるかもしれないし、そもそも、する必要がもうないものだったのかもしれない。
これも至言、大きな官僚機構でもない、私たちのような小さなベンチャー企業でもこうしたことはよく起こっている。昨日までやっていたこととこれからやることとが同じである必要性がどこにあるというのだろう。また、人に関してはこのような一節もある。
AクラスはAクラスを集める
BクラスはCクラスを集める
部下にどういう人を連れてくるかで、管理職やリーダーの程度はかなりのところまでわかる。パターンのようなものがあるのだ。Aクラスの優秀なリーダーのところには、やはり優秀なAクラスの部下が集まり、すばらしい職場が生まれる。対してBクラスの人が連れてくるのはCクラスか、Dクラスがせいぜいだったりする。Bクラスは自分より優秀かもしれない人が怖いからだ。だから、地位をおびやかされる心配のない人ばかりを集める。
付け加える必要もないので、これくらいにしておこう。リアルな書店でなければこの書籍を手にすることはなかったと思うとラッキーだった。最後にこれを。
リーダーは直感を信じる、批判を受け入れてそこから学ぶ、独りよがりを避けるに加え、天の加護を得ることも大事だ。「運も実力のうち」である。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝
【参考書籍:ドナルド・ラムズフェルド著、井口耕二訳『ラムズフェルドの人生訓』(オデッセイコミュニケーションズ)】