2024/09/01
ビジネス
今年の4月ごろ、出張先でふらっと入った書店に『ユニクロ』(杉本貴司著、日経BP刊)という本が平積みされていた。移動時間中の時間をつぶすのにちょうどいいやと購入し、さっそく読んでみた。内容はユニクロ(ファーストリテイリング)の企業としての歴史であり、同時にオーナー経営者である柳井正氏の半生を描いたものであった。気軽な読み物としてはまあまあ面白いのかもしれないが、ビジネス書としては洞察が足りないのか、不完全燃焼に終わってしまった。ご本人ではなく新聞記者が書いたものなので仕方がないのだが。そんなことがきっかけで、「やっぱりご本人の著書をいま一度読んでみよう」なんて気になり、書棚からゴソゴソと過去に執筆された本を引っ張り出してきた。
『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』(共に新潮文庫)、『経営者になるためのノート』(PHP研究所)の 3冊を書棚から発掘し、さっそくこれらを一気に読んでみた。このうち発刊がいちばん古いものはもう出版から20年も経っているから、そのころ私はまだ 40代前半で、ごくごく小規模な零細企業の経営者だった。考え方も今とは全然違うわけで、以前に読んだ時とはまったく異なるいろいろな発見があった。そんな感じで「なるほどなるほど」なんて読み進めていくうちに、ふとあることに気が付いた。「なんか、ニトリさんも似たようなこと言っていたなあ」という気がしたのだ。ということで今度は、ニトリのこれまたオーナー経営者である似鳥昭雄氏の著書を書棚から引っ張り出してきた。『ニトリ成功の5原則』(朝日新聞出版)、『リーダーが育つ55の智慧』(KADOKAWA)、『ニトリの働き方』(大和書房)とこちらも3冊を発掘、同じく一気に読み返してみた。
ユニクロとニトリ、アパレルと家具で分野は違えども、どちらも強烈な個性を放つオーナー創業者が経営することや、数十年で奇跡的な成長を遂げわが国を代表する企業にのし上がってきたことなど、共通点が多い。そしてここからが重要なことなのだが、これらの2社が奇跡的な成長を遂げた理由もこれまた共通なのだと、自分なりに整理ができた。奇跡的な成長への重要な共通点は、大きくは次の3つだ。
①社会に対する貢献の思い、使命感 ②非常識、とても不可能だと思ってしまうような具体的な目標 ③さまざまな成長フェーズにおける優秀な人材の、入ったり出たり |
①社会に対する貢献の思い、使命感
ユニクロの柳井氏は、会社の最終目的は「人間を幸せにするために存在している」という使命の実現であるべきだと説き、同社の使命を「本当によい服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、よい服を着る喜び、幸せ、満足を提供します」と定義している。
一方ニトリの似鳥氏は、柳井氏のいうところの使命を、「ロマン」と呼んでいた。ロマンとは「人の ため、世のために、人生をかけて貢献したい」ことであるとし、自分自身の得失をはるかに超えたところにある願いだという。ニトリにおいて具体的には、「住まいの豊かさを世界の人々に提供すること」だとする。売上や利益を最終目的とせず、損得を超えたところに持ち続ける最終目的としての「使命」あるいは「ロマン」が、日本を代表する企業への成長に導いた要因であることは間違いなさそうだ。
②非常識、とても不可能だと思える具体的な目標
前項の「使命」や「ロマン」といった最終目的を達成するためには、具体的な(数値で表される)目標が必要であると両氏はいう。大切なことは、それらの目標は非常識、不可能だと思えるようなものでなくてはならないということ。2人の共通項として強調されていることだ。柳井氏は、常識で考えたらまともとは思えないような目標こそがイノベーションにつながるとし、売上高が80億円の時から、世界一の製造小売業になるという目標を持ったという。そして売上高が 100億円の時は300億円を目指し、1000億円の時は3000億円を目指し、3000億円の時は1兆円を目指してきたという。似鳥氏の場合は、こうした目標のこと を「ビジョン」と表現している。それは、「普通にやっていたら、できそうもない」と感じるものだという。数店舗の段階で立てた「2002年に100店舗、売上高1000億円、利益100億円」を1年遅れで達成し、2032年に 3000店舗、3兆円を目標に掲げているという。非常識、不可能と思えるような目標を掲げ続けることで、これまでのやり方を変え、新たなチャレンジをしなくてはならない状況を作り出し、チャレンジと失敗、修正を繰り返すことで、その目標に到達し続けてきたわけだ。
③さまざまな成長フェーズにおける優秀な人材の、入ったり出たり
今回の最大の気づきはこれである。2人の著書の中には、人材についての記述もある。今日に至る道のりの中で、会社を支えたり、大きく成長させたりした人材もいる。反対に、未来に対するトップの目線を共有できず、あるいは成長フェーズの変化についていくことができずに去っていった人材もいる。
そこから得られる学びは、企業のさまざまなフェーズにおいて、そのフェーズに見合った優秀な人材が必要であり、そのような人材による経営チームが会社を大きく成長させるということだ。逆にいえば、企業の次のフェーズにおいては、また別の人材が必要となるということでもある。要は、優秀な人材の加入と放出とが、成長には不可欠ということでもある。企業は優秀な人材を集めることが重要であるが、一方で退出もまた重要であるということ。ここはあまりいわれていないことなので、声を大にして指摘したいところだ。一方で、ご両人が現在も経営の第一線で指揮を執っているという現実は、このような視点を持った代役を見つけることの困難さを物語っている。
柳井氏も似鳥氏も、自分が優秀な人間であるとは思っていないようだし、それはきっと事実なのであろう。経営スキルや能力の高い人材、あるいはハードワークを受け入れる人材はほかにもたくさんいる。しかしながら、今回指摘した3つのポイントを持った、あるいは強烈にそのことを認識している人を見つけ出すことはきわめて困難だ。この学びをもって私も、同じ考えや行動を追随しようと考えた次第。わくわくだ。
株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝