会長コラム“展望”

ビジネスは社会貢献、企業はそのためのシステム

2011/10/01

社会

「売上を増やそう、利益を増やそう。そのためにがんばって働こう」経営者は社員に向かっていつもそう語りかける。確かに利益が増えれば、会社は安定的な経営が可能となるわけだし、そのことは社員の安定した生活や収入の増加に寄与するのだろう。メッセージを聞いた多くの社員はそのように考えて いるのではないだろうか。当然、これに対して表立った反論は出ない。しかし、多くの社員は心の中で「がんばっても給料が上がるわけでもないし・・」などと 考えているのかもしれない。そもそも給料は売上、正確にいえば粗利益の中からしか出ない。一時的に原資が不足すればどこからか借りてきて払うこともできるが、この方法は長く続けることは出来ない。そのように考えると、「利益を増やそう」という経営者のメッセージは至極まっとうなものに聞こえる。

がんばって働く=手段
売上・利益を増やす=目的

ここではこのような関係が成り立っている。でも本当に売上や利益を増やすことが会社の目的なのだろうか、今月はこれがテーマだ。
さて、会社は売上が増えるとどのような行動を取るのだろうか。話を単純化して原価率50%、売上高に対する販売管理費率30%、そのうちの半分(50%)が人件費、実効税率50%の小売店があったとしよう。この会社のある年の売上が100だとすると、下記の通りだ。

売上    100
原価    50
販売管理費        30
(うち人件費        15)
税引き前利益        20
税引き後利益        10

さて、翌年にこの会社の売上が2倍に増えたとする。前述の前提条件が変わらないとすれば、それぞれの項目は以下のようになる。

売上    200
原価    100
販売管理費        60
(うち人件費        30)
税引き前利益        40
税引き後利益        20


つまり、この間に会社は、50の原価、30の販売管理費(うち15は人件費)の支出を増やし、最後に10の税金を多く納めることになる。例えば50増えた原価は、メーカーや卸業からの商品の仕入代金となり、30増えた販売管理費の一部は広告宣伝料として広告代理店に支払われ、15増えた人件費は社員の給料となる。これらの増えたお金はというと、ほかの企業や個人の収入になり、同様にそれぞれの企業や個人は収入の増加に見合った分だけ支出の増加を行い、さらにそのほかの企業や個人に支払われていく。そして、このことが順々に繰り返されることになる。多くの企業が売上を増やし、利益を増やせば、次々に収入と支出を増やす企業や個人が増え、社会はどんどん豊かになっていくのだ。そして、そのことによって結果的に税収が増えれば、(税が適切な使われ方がされていると いう前提で)社会にとって必要な部分にお金が回り、さらに社会は豊かで暮らしやすいものになっていく。
冒頭の部分で、売上・利益を増やす= 目的 と書いたが、それは狭い意味での目的であって、広い意味では、売上・利益を増やすことは社会に貢献するということである。私たちは企業活動を通して社会を良くする活動を日々行っているというわけだ。
時々、売上や利益を増やすことに罪悪感を抱いていたり、必要悪だと感じている人もいるのだが、そのような考え方は視野が狭いと言わざるを得ない。同様にボランティアに従事する人などで、ボランティア=社会貢献、企業=社会にとっての必要悪、といったとらえ方をする向きもあるが、これも的外れで、どちらも同じ社会貢献である。ただ、ボランティアは社会のある特定の一分野に対する貢献活動であり、企業は社会全体に対する貢献活動という違いがあるだけなのだ。
ビジネスとは知恵をモノやサービスに代え、これを求める人びとに提供することで直接社会に貢献するものであり、企業はビジネスを通して得られた対価を取引先や社員、あるいは税としてお金を循環させることにより社会を豊かにするすばらしいシステムである。社会貢献は一部の大金持ちや慈善事業家が行う特別なものではない。私たちが企業を通して日々行っている活動そのものである。そのことを正しく認識し、豊かな社会づくりに向けてがんばって働きましょう。


株式会社鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝