会長コラム“展望”

なんでもかんでも安い国

2024/07/01

個人的価値観

なんでもかんでも安い国

円安が続いている。コロナ騒動が一段落したこともあるのだろうが、こちらの影響もあって都心や観光地のみならずどこにいっても外国人でごった返している。統計によると、3月に引き続いて4月の訪日外国人旅行者は300万人を超え、過去最多を更新しているという。外国人にとって円安は購買力にプラスに働くから、日本での買い物は何から何まで安く思えて仕方がない、といった感じだろう。少し前のことだが、アメリカで食べたラーメンが一杯20ドルを超えていた。1ドル150円としても3000円、これにチップ(20%程度)が乗ると3600円、日本ならこの3分の1以下で食べることができる。


このように外国人にとって通貨下落率の高い今の日本はなんでも安い、しかも、安全、清潔、人は親切とくるから、「こんないい国はない」と思ってくれている外国人が急増しているのではない か。当然、訪日した人で「また日本に来たい」と考える人も多いはずだし、中には「どうせリモートワークだし当分の間は日本に住もう」なんて考える人もいるかもしれない。


こうした人々の行動は、わが国の消費を押し上げる。具体的にどれくらいのインパクトがあるのかは知らないが(調べればすぐにわかる)、例えば観光地に 100室のホテルがあったとして、50室が外国人で埋まる状況になっていれば、以前とは違って国内からの観光客で半分だけを埋めればいいだけだ。当然、客室稼働率は高位で推移するだろうし、そんな状況では室料の値上げもそう難しくないだろう。客単価 3万円、わずか8席のカウンターの高級すし店でも、半数以上が外国人なんてケースは珍しくない。この金額は米ドル圏の外国人にとっては200ドル弱にすぎないわけで、旅行先での食事としては、それほど高いとは感じないだろう。


観光業や飲食業などの好景気は、企業業績の向上や、そこで働く人たちの雇用や賃金の増加を生み出し、これが消費につながってくる。訪日外国人による活況は、飛行機や飛行場、入国管理などのインフラがボトルネックになる可能性はあるにせよ、今後もこのトレンドは強まりこそすれ弱まることはないだろう(パンデミックや大震災でも起こらない限り)。


この現象は視点を変えれば「日本を知って、その魅力を感じ、好きになる」人の激増を生み出しているはずだ。と考えれば、この流れは消費拡大だけではなく投資拡大にもつながってくると思う。以前から中国やアジア圏の人たちを中心に、日本の不動産を購入するケースが増えていたが、こうした傾向はさらなる広がりを見せるのではないか。例えば都心の分譲マンションを100戸売り出すとして、50戸は外国人が購入してくれるのであれば、日本人には50戸売ればいいだけだ。そうであれば、強気の価格設定も可能になるだろう。何よりそもそも海外の主要都市と比較して、東京の不動産価格がそれほど高いというわけではない。


投資といえば、最近では日本での半導体製造のための大規模な投資も行われるようになってきた。台湾のTSMCやソニー等が熊本で行う設備投資にしても、ラピダスが北海道で行う投資にしても、国の支援を受けるとはいえ、ここ20年ぐらいはなかったダイナミックな動きだ。後者に関していえば、米国のIBMが所有している半導体製造技術のライセンス供与を受けて、ラピダスが日本で製造しようという試みとのこと。逆から見れば、アメリカで製造してもコスト的に見合わない。ならばインフラが整っていて、かつ低コストで製造ができそうな日本の会社に作ってもらおう、ということなのではないか。(当たっていればちょっと残念だけど。)


日本は政治的にも経済的にも安定しているし、法制度も整っていてビジネス環境は悪くない。その他のさまざまなインフラも整備されている。そして、20年以上続くデフレでモノやサービスの値段が上がっておらず、他の先進国と比較して安価なうえに、円安もそれに拍車をかけている。なんでもかんでも安い国・日本に、世界からの消費や投資がいま向かっているのだろう。久しぶりのチャンスの時期だ。現政権もそのような認識を持って行動しているようにも思えるのだが、それが国民にうまく伝えられていない。もどかしさを感じるなあ。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝