会長コラム“展望”

シニア世代の考えるべきこと

2024/12/01

個人的価値観

シニア世代の考えるべきこと

 前回、私(現在61歳)と同世代で、仕事をリタイア(セミリタイア)したり、子どもが家から出たりして「子どもたちに対して何もしなくてよくなった」人たちが直面する課題について書いてみたところ、やはり同世代からの反響がいくつかあったので、それについてもう少し書いてみたい。

 課題とは「これまで仕事や子どものために注いできた時間や情熱を、どこに振り向けて残りの人生を生きていくべきなのか」ということなのだが、これがバッチリ見つかれば充実した人生を送ることができ、そういった人がシニア世代の大勢であれば、それが社会の活性化にも寄与するであろう、そんなことを書いた。

 一方で、「それがなかなか見つからないよ」ってことだと、長くなった高齢期をいきいきと過ごすことから遠ざかってしまう危険性がある。そしてそういう人が多いと、せっかく医学が進歩して長寿社会が実現されたところで、社会保障の費用ばかりが増えてわが国の社会や経済はよい方向に向かっていくことができなくなる。ちょっと大げさかもしれないが。

 私たち人間は、自らが生計を立てたり、家族を養っていくために働き、消費を行い、自分たちの喜びや生きがいを求めて子どもをつくり育てたりする。それらの活動は別の見方をすれば、すべて生産や消費を通して社会や経済の発展に寄与している、つまり社会に貢献するという行為だ。ざっくりいえば、生産や消費を通して生み出された価値の総和が国内総生産(GDP)であり、子どもたちは未来の社会を担っていく存在なのだから。


 このように、「自分のやりたいこと=社会に対する貢献活動」というこの構造を保ちながら残りの人生を生きていくことができたなら、個人にとっても社会にとってもそれは望ましいことである。そうしたことから超高齢社会のわが国では、シニア世代が「これまで仕事や子どものために注いできた時間や情熱を、どこに振り向けて残りの人生を生きていくべきなのか」についてきちんと考え、行動する社会にしていくべきなのだ。


「令和シニア『添い遂げは幻』 離婚率最高、老後に備えを」


 日経新聞にこんなタイトルの記事があった(2024年11月7日付)。「厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の離婚件数に占める熟年離婚の割合は23.5%と、前年に続き過去最高だった」ということだそうだ。想像するに結婚して数十年が経ち、夫婦が協力して生計を立て、子どもを育てるという目的を終えたとき、改めて夫婦を続ける意味が問われるようになる、ということだろう。そのタイミングで、夫婦間の人間関係や価値観、好き嫌いが(結婚して)何十年ぶりかに問われるのだ。そこで、価値観や交友関係についてその夫婦に重なり合う部分が大きければ、離婚という選択をする可能性は小さい。「これまで仕事や子どものために注いできた時間や情熱を、どこに振り向けて残りの人生を生きていくべきなのか」という課題について、その夫婦の方向性がある程度一致するということだからだ。

 しかしそうではない場合は、(子育て等の)共通の目的を喪失した夫婦が一緒にいる必要性はなくなってしまう。もちろん現実的には、経済状況や社会環境がそれを簡単には許さないということもある。だからすべてが離婚につながっているわけではないだろう。しかしそうした場合「離婚したい」という思いはくすぶり続け、実質的に夫婦は同居人となる。こんな人びとがきっと多数存在するのだろう。


 もちろん離婚を必ずしも否定するわけではない。ではあるが何より「これまで仕事や子どものために注いできた時間や情熱を、どこに振り向けて残りの人生を生きていくべきなのか」というテーマについて一人ひとりが考え、夫婦が議論することは、とてもとても大切なように思えてならない。


 さて、その“解”についてだが、専門家でもない私にはよくわからない。が、あえて当てずっぽうをいえば、それは「コミュニティ」というキーワードに収斂されるのではないだろうか。

 人生のある時期まで、コミュニティとは「家族」であり「職場」であった。しかしそれが失われる(あるいは比重が軽くなる)シニア世代に入ると、そこからはコミュニティを広げることを意識的に行っていくことが求められるのではないだろうか。学生時代からの友人、仕事の同僚や先輩後輩、子どもの同級生の親仲間、趣味の仲間、ファンクラブ仲間――挙げていけばキリがないが、そうしたコミュニティの存在を意識すること。それぞれの価値観に見合うコミュニティに所属し、そこで時間を消費する。複数のコミュニティ、濃密なコミュニティに属していれば、活動的に日々を過ごすことができる。もちろんコミュニティに属さなければならないと言っているわけではない。結果的にひとりではなく、積極的にひとりでいることに価値を置く人がいてもそれはそれでいい。

 「職場」あるいは「家族」というコミュニティから、さまざまなコミュニティへと活動範囲を広げることで、活発な高齢期を過ごす人を増やすことが、現代のわが国において重要な社会課題だと感じている。超高齢社会はわが国のみならず世界でもはじめての経験で、そうしたことに対する処方箋を持つことがこれまでできなかったのだ。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長 CEO 清水祐孝