会長コラム“展望”

人生における2つの変化

2024/11/01

個人的価値観

人生における2つの変化

 先日、知人のお母様が亡くなり葬儀に参列する機会があった。その場には、古くからの友人も参列していたので、式の終了後、何人かで集まって話をすることになった。


 彼らは、子どもたちが同級生であることがきっかけで知り合った同世代の仲間で、約30年という長い付き合いの歴史がある。当然のことながら会話は故人のことからスタートするのだが、話題は次第に、故人と同世代の自分たちの両親のことに移っていく。といってもみな60代だからか、父親はすでに他界しており、存命の母親たちの現状を報告し合うように流れていく。久しぶりに会うということもあってか、その場にいない知人たちの親世代のことにも話が及ぶ。


 さて、親世代の話が一段落すると、次なるテーマは自分たちのことに移っていった。これが本稿の本題。私たちの年代(中心は50~60代)には、共通して直面している、人生の“ある変化がある。それは、子どもの独立と、仕事からの引退である。


 30年前からつい最近まで、私たち親世代は、子どもたちに関するテーマを共通の話題としてきたように思う。極端にいえば、子どもたちを通して親世代が結びついていたのだ。しかし、彼らが社会人となり、結婚したり、別の場所で生活したりするようになると、気が付けば、親世代の生活圏からは外れていった自分の子どもたちの話題は、隅へと追いやられてしまうのだ。


 母親にとってみれば、一般的には父親に比べて子どもとの関わりが強いので、子どもの独立は、自らの人生における大きな変化をもたらす。一言でいえば「彼ら(子ども)に長年注いできた時間や情熱を、今後はどこに向ければよいのだろう?」ということである。


 次に、これは主に父親にとってだが、このぐらいの年齢になると仕事からの引退(あるいはセミリタイア)という変化がある。子どもの独立と相前後して、多くの人にはこの日が訪れる。するとこちらも「これまで仕事に注いできた時間や情熱を、今後はどこに向ければよいのだろう?」という課題に直面する。父親も母親も同様の課題に直面するのが、この世代なのだ。


 もちろんこのことは、男女の別なくフルタイムでの仕事を持つことが当然という現代のような時代においては、事情は多少異なるのかもしれない。あるいは単身や夫婦のみの世帯にもあてはまらない部分もあるだろう。


 しかし、子どもの独立や自身の仕事からの引退を契機に、それまで注いできた時間や情熱を別のどこかに振り向けなくてはならない、という課題に、50~60代の大多数が直面するという事実は、紛れもなく存在するわけで、現代の長寿社会においては社会的にも経済的にも大きなテーマなのである。このことはもっとクローズアップされるべきではないか、というのが今回の主張である。というのも、早くからそのことを認識していれば、一人ひとりがより豊かな人生を歩むことがで、その総和である社会も活性化するのではないかと思うのだ。DIE WITH ZEROという書籍が話題になっているが、このテーマや、ひとりの人生には(順番の前後はあれども)必ず終わりが来ることなどを考えあわせれば、普通に成り立つ考え方である。


 豊かな人生を歩むために必要な「マネープラン」についてはファイナンシャルプランナーやライフプランナーといったお金の専門家によって巷で頻繁に語られているように思う。しかし、これと同様に豊かな人生を歩むために必要な「時間と情熱をどこに傾けるか」という課題については、ほとんど語られることはない。高齢社会がますます進展していく中で、多くの人が前もってこの課題を認識し適切に対処することができるようになれば、高齢社会も明るいものになる。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝