会長コラム“展望”

超高齢社会が生み出すとても大きな需要について

2023/09/01

社会

超高齢社会が生み出すとても大きな需要について

先だって、総務省は「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査」なる調査報告書を発表している。これを受け同日、岸田首相は東京都豊島区役所に赴き、区や社会福祉協議会の関係者との意見交換を行っている。その後のコメントが官邸のHPに掲載されている。


岸田内閣では、全世代型社会保障の構築の一環として、身寄りのない高齢者の生活上の課題に丁寧に向き合い、お一人でも安心して歳(とし)を重ねることができる社会を作っていく、こうした取組を進めてまいります。具体的には、意見交換の場でも申し上げましたが、本日公表した総務省の実態調査も踏まえて、厚生労働省において、身元保証や民間事業者によるサポートについて、実態把握、そして課題の整理、これを行ってまいります。その上で、安心して民間事業者による身元保証等のサポートを受けることができる、こういった仕組みづくり、さらには豊島区のような先進事例も参考にしながら、十分な資力がない高齢者への相談体制の整備など、内閣官房による調整を含めた省庁横断的な視点で取組を検討してまいりたいと考えています。(首相官邸HP)


昨年の推計ではわが国における高齢者(65歳以上)は3,600万人を超え比率では29.1%にも及ぶ。そして当然ながら今後もその比率は向上していく。高齢者がいる世帯の中で、単独世帯と(単独世帯の予備軍でもある)夫婦のみの世帯はその6割以上となっている。そうした中で、身寄りのない高齢者に身元保証や生活支援、あるいは死後の事務手続きなどのサービスに対する需要は高まるいっぽうである。これまでわが国の社会が経験したことのない切実な課題だと言える。国がそのような社会の変化から生み出された課題に対応していくことは急務であり、そこを直視しようという姿勢をトップから打ち出したことには大きな意義がある。いっぽうで、こうした社会課題から生み出された高齢者の需要は、民間企業が単純にサービスとして提供するには難しい要素も数多く存在する。そこで今回の調査報告書に目を移しながらその点を考察してみたい。


報告書ではさまざまな高齢者向けのサービスに関係する機関に対し調査を行ったうえで、重要な課題を提起している。これらはすべて的を射たものであり、サービスの提供を民間の自由競争の原理に任せて置けばうまく行くという類のものではない。解決すべき課題を未整備あるいは放っておけば、トラブルが頻発し、良質の事業者はリスクを嫌って参入をためらうだろう。結果的に悪徳業者がはびこることも考えられサービスは普及しないだろう。いっぽうで公的機関が無尽蔵に税金を投入してサービスを提供することも不可能だ。ということで公的機関の適切なサポートの上で民間が事業として成立するような形態のサービスにしていかなくてはならない。そこで、これらの課題について民間企業の視点からのコメントを加えてみた。



  • 加齢等により判断能力が不十分になることも想定される高齢者が契約主体である


高齢者との契約は双方にリスクがあるため慎重に行う必要がある。同時に、認知症等により判断能力が変わる(低下する)こともあるので、サービスを提供する立場からはこれも大きなリスクだ。契約に際して、説明の機会を増やしたり、第三者に立ち会ってもらうなどトラブルを避けることは必要ではあるが、民間企業にとってそれらはすべてコストとなって提供価格に織り込まれることになる。判断能力の低下というリスクも同様だ。民間は利益が出なければ事業を継続しくことは出来なくなってしまう。そしてコストを端折ればそこに大きなリスクが待ち受けているのだ。


  • 死後事務等も含めると、契約期間が長期にわたる


単なるモノやサービスの提供とは異なり、サービスの提供期間が長期に及ぶため、その間にさまざまな追加コストの発生が起こり得る。それに見合った収益を得られる予測が立たない限りは良質の事業者はサービスの提供をためらうだろう。切実なニーズ(=社会課題)が存在するのに、適切なサービスが提供できないという状況は改善すべきことは言を俟たない。


  • サービス内容が多岐にわたり、サービス提供の方法や費用体系も一様ではないため、事業者の比較検討が困難である


小規模な事業者がほとんどであり、そのような事業者は提供できるサービスも限定される。健全な事業者が数多く参入してくれば、ある程度は比較検討がしやすくはなってくるのだろうが現状では難しい。将来的には第三者的な機関が分散されている情報を集め、編集しユーザーが比較検討をしやすくなるようにすべきだろう(=当社の役割)。



  • 契約金額が高額、かつ、費用の一部の支払いはサービスの提供に先行する


サービスがまだ普及していないことや、さまざまなリスクを鑑みると契約金額は高額になってしまうことは現状では致し方ない面がある。逆に安価なサービスを提供する事業者がいるとすれば、それは何らかのリスクを引き受けていないということでもある。事業者にとってのリスクの低減をどう計るかという観点から公的機関が何らかの役割を果たすことが望まれる。費用の支払いの一部がサービスの提供に先行するという指摘もその通りであるが、サービスの提供後に費用の支払いを求めても契約者が意思能力を有していないとか、生存していないこともあるため、これらについても適切なルールやガイドラインを公的機関がサポートすべきだろう。 



  • 契約内容の履行を担保できる者が不在である場合が多い


ユーザーとの契約をきっちり履行すべき事業者が個人経営で、ユーザーより高齢なんて笑えない話も存在する。契約内容の履行を担保するために公的機関や第三者的な機関が役割を果たすことが望ましいだろう。ただしこれもコストになって反映される話ではある。


民間企業も公的機関と同じく、社会貢献のための機関である。売上を増やすことで取引先に対する支払いを増やして経済の活性化に貢献し、多くの人を雇用することで彼らの消費や納税に貢献し、利益を増やすことでこれまた納税を通して社会に貢献するのが民間企業である。なので公的機関が健全な考えを持った民間企業をサポートすることで、超高齢社会が生み出す新たな可能性を、しっかりと市場として機能するものにさせる必要があると切実に考える。何よりわが国は、その人口動態からも金融資産の保有状況からも、高齢者に適切に消費や投資をしてもらわなければ、経済は活性化しないことは自明である。平均年齢は50歳に迫ろうかというわが国は、それが20代のインドやフィリピンとは全く異なり、現実問題として若い人たちに大きく期待できる構造にはないのだから。



株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝