会長コラム“展望”

世界は大転換期?

2023/03/01

社会

世界は大転換期?

平日は早朝の経済番組を少し見てから出掛けるのが日課になっている。経済や金融を直接対象とした仕事をしているわけではないが、間接的にはこれらとビジネスとつながっているわけだから仕事の役に立たないってことはないはずだ。何より知的好奇心が旺盛なほうなので見ていて楽しい。番組では毎日、主に金融の専門家がそれぞれの見地から短期、中長期的なマーケットの動きを解説したり、先行きを予想したりしてくれる。けれども、彼らの予想はその通りになるとは限らない。それどころか、そうならないことの方がむしろ多い。特に、少し先の具体的な数字(経済成長率、金利、為替、株価、コモディティ価格などなど)を言わされるようなものなら、これがほとんど当たらないといっても言い過ぎではない。


予測が外れる理由はもちろん、専門家の能力が劣っていると言うことではない。彼らは専門知識をもとに、国の内外の政治や国際、経済、金融情勢をはじめとした様々な状況やデータを掛け合わせ、先行きの予測を立てる。しかし、それらは想定の範囲内の予測であって、世界は想定外のことも頻繁に起こる場所だ。例えば、戦争等の地政学的な変化だとか、何らかの意図を持った要人の発言だとか、はたまた天災だとか。こうした想定外の出来事を事前の予測に織り込むことは不可能だし、さらにはこうした出来事が起こす変化によって次の世界情勢は書き換えられる。こうしたことを繰り返すうちに予測と結果はどんどん乖離してしまうわけだ。このような事に都度対応して専門家も予測を書き換えているのかもしれないが、その度ごとに新たな予測を聞きたいなんて誰も思ってはいない。というわけで、専門家が予想を外すのは無理のないことなのである。新年スタート日の日経新聞には専門家や著名な経営者による、その年の経済成長率や日経平均株価の予想が掲載されているが、これが的中した人が経済通のすごい人なんて考えるのはナンセンスで、チップを置いた数字のところに運良く玉が入ったルーレット程度のことでしかない。


もちろんわたしは予測を立てることに意味がないと言っているのではない。予測の根拠となる考え方、推論が重要なのであって、結果にさしたる重要性はないと言いたいだけだ。これもまあ当たり前のことか・・。


さてもう一つ、これらの予測を困難にさせる変数に長期的なトレンドがあるように思う。ゆっくり変わっていくトレンドだから目先の情勢にどう影響を与えているのかが定かでない。したがって専門家の予測にもそれを織り込むことは基本的にない。近年の長期的なトレンドの最たるものは1990年代から始まったグローバル経済化(ボーダレスエコノミー)の流れであろう。あらゆるモノが最適な場所で生産され、世界中に流通して供給と需要が長期にわたって拡大した。もちろんいいことばかりではなく、日本におけるデフレ長期化の遠因になるなどの副作用も生み出したりした。ところがこの長期的なトレンドが大転換を迫られている(と私は思っている)。きっかけは米中という世界の1位と2位の大国の対立激化と、ウクライナ侵攻をきっかけとした国際社会でのロシア外しだ。


ざっくり中国はさまざまなモノの供給国として、ロシアは資源供給国としてグローバル経済のトレンドの中で大きな役割を担ってきた。だがこれが大転換を迫られている。世界は供給の代替先の確保に走らなくてはならないが、数量的にも価格的にも簡単ではない。例えば欧州の国々は張り巡らされたパイプラインを通して天然ガスの供給をロシアから受けていた。それが難しくなった今日、他の国々からの供給に振り替えたり、自然エネルギーを含む他の資源による調達で危機を何とか乗り切ろうとしている。こんなふうにサプライチェーンは再構築を迫られ、これには長い時間を要することになるだろう。調達ができなるなる、滞る、こんな事態が頻発する中では「在庫は悪だ」なんて言ってはいられない。ジャストインタイムなんて流行り言葉があったが、こんなのは死語となるのかも知れない。さまざまな変化が積み重なりコストはこれまで通りとはいかないことは確実なように思う。足元のインフレは一時的なものではなく、デフレ・低金利の時代から、インフレ・高金利の時代への転換期に差し掛かっているのではないだろうか。


そしてこのような中で国家は、民主主義国家と専制主義国家、そして「いいとこ取り国家」の3極に色分けが可能となってきた。いいとこどり国家は例えばインドやトルコがその代表例だ。民主主義国家は理念が相いれない専制主義国家を何とかやっつけたいと考えているが、いいとこ取り国家の存在がこれを難しくする。いいとこ取り国家は「理念じゃ飯は食えないよ」とばかりに、自国が豊かになるためなら、誰とでも握手をする。漁夫の利を得るのは当分この陣営なのだろうか。


妄想に付き合わせてしまった。でも、このような長期的なトレンドに気づくのは、一部の領域の専門家より、遠くから見ている好奇心旺盛な素人の方が向いていると思いませんか。何しろ結果より推論が大事なわけですし・・。


株式会社鎌倉新書
代表取締役会長CEO 清水祐孝