会長コラム“展望”

現場で見聞きすること

2017/09/01

個人的価値観

お盆休みを利用して仲間とラスベガスへ出かけてきた。とはいえ、わたしはカジノには全く興味はない。数ヵ月前に来日した際に知り合った現地の経営者が遊びに来いと誘ってくれたので、その話に乗ってみたのだ。彼は不動産の事業を行っていて、あのテスラモータース(最近、正式社名をテスラに変更した)と共同で事業を行っているという。そんな関係で、今回テスラの新しい工場を見学させてもらう機会を得ることができた。


彼が所有するプライベートジェット機に乗せてもらい、ラスベガスから約1時間、ネバダ州北部のReno(リノ)という町のはずれにテスラの巨大な工場(Giga Factoryと命名されている)はある。リノは同じ州のラスベガスよりも距離的にはサンフランシスコのほうが近い。とはいっても車だと4~5時間掛かるという。どうしてこんなところに工場を持ってくるのかを尋ねてみると、ラスベガスで潤うネバダ州は税金の面で有利だということらしい。という訳で、テスラのみならずグーグル等のIT企業も多数この地にオフィスや工場を構える予定になっているのだという。

テスラには、トヨタとGMの合弁の工場を解消の際に買い取ったメインの組み立て工場がカリフォルニア州にあるらしいが、昨年末にスタートしたこの工場では電気自動車(EV)の心臓に当たるバッテリー(セルと呼んでいる)の製造を行っているという。確かに大きな工場ではあったが、とてつもなくという感じはしなかった。しかし、現在の規模はこれから予定されている計画の20数パーセントだといえば話は違ってくる。ということは、工場の大きさはこれから約4倍になるということ、何でも完成したあかつきには世界最大の敷地面積を持つ工場になるという。そして、2018年までに生産されるバッテリー量は年間35GWh(ギガワット/時)に達し、これはこの工場を除く全世界で生産される総量とほぼ同規模だという。


当初、この工場は日本を代表する電機メーカーであるパナソニックとの合弁だと聞いていたが、どうも話を聞いていると協業というより、役割分担に近い感じがした。要は同じ建屋内の片側でパナソニックが小さなセル(単3乾電池より一回り大きな円筒形のリチウムイオン電池)を作り、これを同じ建屋内の隣にあるテスラの工場に出荷、テスラ側が最終的な製品(バッテリーセル)に仕上げるという手順だ。ということは、パナソニックは部品の供給者に過ぎないという見方もできるわけで、小さなリチウムイオン電池から効率の良いバッテリーを作る技術をテスラが独占するのではという懸念が頭をもたげる(これが技術的に相当高度なのか否かは、素人の私にはよくわからないが)。そうなっては、日本代表の一社であるパナソニックもEV時代には主役とはなり得ないのではないか、ちょっと心配というのが第一の気づき。


次に、大きな工場の前にはこれまた巨大な駐車施設(電車通勤などないから、数千人の従業員は車で通勤する)があるわけだが、ここに自社製品(テスラの車)で来ている人はほぼゼロだ。テスラの車は高額なのかも知れないが、彼らに愛社精神がないわけではないだろうから、乗っている従業員がもっといてもいいのになあと思った。これはそもそも車の供給不足あるいは電気自動車の充電インフラが、従業員の自宅やその近隣に整っていないことを示しているのだろう。工場は町から離れた山のふもとにあって、従業員が毎日車で走る距離は相当なものになる。ということは、頻繁に充電をしなくてはならないわけで、もしかすると自動車の製造よりも充電設備の普及がEV普及のボトルネックになるのかも知れない、これが第二の気づきである。


そして最後の気づきは、テスラは電気自動車のメーカーだという定義づけが誤っているということ。同社は昨年ソーラーシティという太陽光発電の会社を買収していて、ここでソーラーパネルの開発を行っている。一方で見学したGiga Factoryでは自動車用バッテリーのみならず、家庭用の定置型蓄電池の製造を行っていた。したがってテスラは電気自動車メーカーのみならず、住宅における電力インフラの供給者としての顔を持つことになる。そのように考えると、テスラはトヨタなどと同じ自動車メーカーというより、石油や石炭などの化石燃料エネルギーの次世代エネルギーインフラを牛耳る企業を目指していることになるわけだ。

以上が、最新の巨大工場見学から得られたいくつかの仮説だが、これらは真実かどうかを検証したわけではないし、誤った事実や認識も多分に含まれていると思う。なので、ここではあちこちに出かけてリアルな見聞を深めることって大切だよね、って話にとどめておきたい。


蛇足だが、この日の夜はラスベガスに戻り、たまたまやっていたレディガガのライブコンサートに出かけてきた。聞いたことのあるのは数曲しかなかったが、コンサートはとても素晴らしく、行ってみてよかったと十分に思えるものだった。デジタル化で複製が容易になり、ITの進化とスマホ等の通信機器の普及によって音楽配給自体が手軽、つまり過剰となる一方で、リアルなライブという供給に限りがあるものの希少性が高まっていていることを、400ドルという高額のチケット代が示しているのだろう。ということでこれまた今回の発見でした。


株式会社 鎌倉新書
代表取締役社長 清水祐孝