会長コラム“展望”

新しい年を迎えて

2018/01/01

個人的価値観

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

以前、本稿でアメリカ・ネバダ州のテスラモーターズの工場(ギガファクトリー)に訪問したというネタを書いたことがある。そこは巨大な燃料電池の工場で、将来は自動車のエネルギー源もガソリンなどの化石燃料から電気や水素に変わっていくだろうということをリアルに感じてきた。


自動車の話で言えば先日、ゴルフの際に友人のクルマに乗せてもらって驚いたことがある。最近購入したというその新しいクルマでは自動運転とまではいかないものの、それに近い状況がすでに確立されているのだ。


目的地までは手をハンドルに添えておくだけといった感じで、あとはクルマが連れて行ってくれるという感じだ。車線変更も自動でしてくれるし、何でも縦列駐車や車庫入れもリモコンひとつで可能ならしい。


そういえば最近のニュースでは、イギリスやフランスではガソリンとディーゼル車の販売が2040年以降禁止されるとあったし、中国でも同様の動きがある。とはいえ、2040年までは相当な時間もあるし、電気自動車や自動運転の時代なんて遠い将来のことだと思っていた。


しかし、こんな体験をするにつけ、そんな日はもっと早く、場合によっては数年後にやってくるのかも知れないと考えるようになった。そういえば、自動車メーカーのボルボは2019年以降に発売する製品はすべて電気自動車とハイブリッド車にするという。


電気自動車が主流になれば、ガソリンスタンドは不要になって、個々の駐車場に充電設備が備え付けられるようになるだろう。二酸化炭素などの自動車からの排気ガスがなくなれば、環境にもプラスのインパクトがある(もちろん、その電気をどうやって作るのかという議論もあるにはあるが)。


そんないっぽうで、電気自動車になるとこれまでの自動車メーカーの勢力図が大きく変わる可能性も考えられる。欧州は環境に対する意識も高いので、EUや国家の方針として電気自動車へのシフトを積極的に行っていくだろう。


また中国は国内に大きな市場を持つという強みと環境問題への対応という課題がある。そこで化石燃料の時代には劣位だった自動車メーカーが、EV化を進めることで世界のトップメーカーが生まれることだって考えられる。


そうなると、世界のトップに君臨する日本の自動車メーカーはその地位を維持できるのかが心配事となる。部品メーカーまで含め自動車産業は全製造業の2割弱を占める巨大産業だから、そうなったときの日本経済へのインパクトは大きい。


いっぽうの自動運転も社会を大きく変えるだろう。タクシーやトラック等の自動車を運転することで成り立つ仕事はなくなってしまうし、事故もほとんどなくなって修理工場も多くは必要なくなる。自動車保険にだって入る人は減ってしまうだろう。


良いこともある。交通渋滞は少なくなるだろうし、事故も減るだろう。運転に労力を割く必要がなくなるから、その時間を有効に活用できるだろう。


思いつくままに自動車のことを書いてみた。このように技術の進化はわたしたちの生活を変えるとともに、そこでは新たな機会と危機が生じ、その結果として勝者と敗者が生まれることになる。


わたしたちだって、インターネットが生活のインフラとなったことによって、ここまでは企業を成長させることができたわけで、技術の進化とそれに伴う消費者のニーズや行動様式の変化に既存のビジネスをマッチさせることができたから、たまたま生き残っているだけだ。


社会の変化に対する視点が欠けていたら出版社のまま衰退を余儀なくされただろう。ということで、社会の変化に常にアンテナを立て、自らを変えるチャレンジを躊躇なく行っていくことだけが、将来を約束する。このことを片時も忘れずに新しい年を迎えたいと思っている。


株式会社 鎌倉新書
代表取締役会長 清水祐孝